“え?面白いことを聞くね”
 僕はむっとして彼を睨みつけた
 “ごめんごめん。君が面白いことを言うもんだからさ”
 “愛があればなんでもできる、、、かぁ”
 “そもそも愛とはなんだろうね”
 “とても不確かで存在自体が不明瞭だ”
 “その辺りを通ってる人に「愛とは何か」って尋ねてご 
 らんよ”
 “三者三様の答えが返ってくるはずだから”
 僕は目の前を通り過ぎる人たちを見て、視線を落とし
 た
 目の前には食べかけのプリンがある
 “形はあるのかもしれないね”
 “君の前で哀れにも粉々になったプリン”
 “食べる前は形があり美味しそうに見えても”
 “食べてみれば、な〜んも味のしない
 ただ滑らかな食感だけが口の中に広がる”
 “甘くもなく苦くもない”
 “かと言ってしょっぱくもない”
 “周りのカラメルソースの苦味だけが口に残る”
 “それはただのこのプリンの感想じゃん!!”
 僕は咥えていたスプーンを外し、彼に向けて叫んだ
 “定義というものはありイメージはできるけど、その中
 身は無だっていうことだよ”
 “言葉にはできないということ”
 僕はポカーンとした顔で彼を見た
 彼は行き交う人々を見つめながら
 “確かに「愛のために死んでください」や「どちら
 を選びますか」なんて問答よく聞くよね”
 “なんで死が前提にあるのか分からないけど”
 “でも、人は用意された答えには理性を持って答え
 ようとするけど、もし目の前で本当に大切な人が
 危険な目にあった時、君たちは本能でどんな行動を
 取るんだろうね?”
 君はにやりと笑った
 “それは自分の心でしかないということ”
 
        『愛があればなんでもできる?』より
5/17/2023, 8:18:32 AM