サーッ
雨が降ってきた
軒下にはお地蔵さんと女の子が1人
車が1台通り抜けた
そこにはもう誰もいない
白日の下には変わらない風景
お地蔵さんとちょっと齧られたお饅頭があるだけ
『通り雨』より
「やっほ!来ちゃった♫」
玄関を開けた瞬間にそう一言
両手両脇には大きな荷物を抱え
無造作に巻かれ上で団子になった髪
その格好で街中歩いたのかと疑いたくなる
半袖短パンのルームウェアにつっかけ姿
我が友はそこに立っていた。
「取り敢えず...入れてくれない?」
ポロリとオレンジがこぼれ落ちた。
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「相変わらずおしゃれなお皿が多いね〜」
そう言いながら勝手知ったる顔で食器棚から
何枚か皿を取り出し、買ってきた惣菜類を
手際よく盛りつけていった。
あの大荷物の中は殆どが食べ物、酒類だった。
「そうそう‼︎これを見せたかったんだぁ‼︎」
「じゃ〜〜〜〜ん‼︎」
そう言って一際大きな荷物から大きな何かを取り出し
た。
「え⁇それもしかして...」
「そう!買っちゃった‼︎生ハムの原木‼︎!」
「そんな大きな...いくらしたの⁉︎」
そんな言葉は華麗に無視され、彼女はいそいそと
原木を台に取り付けていた。
「憧れだったんだぁ。自分の好きな時に好きなだけの
量が取れる。奮発して良かった〜!」
カウンターにそれを置くと、今度はさっき落とした
オレンジを絞り始めていた。
私もワイングラスを取り出し、ワインを注ぎテーブル
に置いた。
テーブルの上をあらためて眺めると、色とりどりな
イタリアン料理が並んでいる。
「さてと、乾杯しよっか」
彼女がキッチンから出て、最後の料理をテーブルに
置いた。
私はワイングラスを彼女に渡した。
「かんぱ〜い‼︎」
程よくお腹も満たされアルコールも回ってきたところ
で、私は切り出した。
「...なんで分かったの?」
彼女はふと笑うと
「そりゃ分かるよ。何年来友達してると思ってる
の?」
そう、今日私は5年も付き合っていた彼氏に唐突に
フラれたのだ。
理由は“他に付き合っている人がいる”その人と近々
結婚するんだそうだ。
好きな人ではなく付き合っている。
そして、今まで本命かと思われていたが、いつの間に
か私が浮気相手に降格されていたのだった。
いきなりの事すぎて、どうやって家に帰ってきたかも
記憶にない。
そして、他愛もない会話しかしていないはずの彼女が
何かを察して家に来てくれたのだ。
私はようやく思考がまとまると同時に、視界がぼやけ
始めた。
彼女は私の頭を撫でてくれている。
「ぐやじい"よ〜‼︎」
「1年しか付き合ってない人に私は負けたんだよ〜」
「結婚ってなに⁉︎この前一緒に指輪見に行ったのに」
「私じゃなくて、彼女のために行ってたと思うと、
本当に悔しいよ〜」
私はわんわん泣いた。
この歳になってこんなに泣くとは思わなかった。
友はずっと黙って私の話を聞いてくれていた。
「よし!じゃあ今から奴の家に殴り込みに行きます
か‼︎」
空になったワインボトルを片手に友は言った。
友の目は笑っていなかった。
「え⁉︎いいよいいよ。そんな事しなくて‼︎」
その後も冗談を交えつつ、お酒を酌み交わしていくう
ちに私の気持ちもだいぶ楽になった。
「今日は本当にありがとね。」
ぼそっと言うと、友はにやりと笑い
「こんな時はお互い様だよ。ノープロブレム。」
きっと慌てて来てくれたのだろう。
私のためにこんなにもたくさん買い物もして、折角
お風呂入っていたのに汗だくになりながら駆けつけて
くれた親友。
友の笑顔がとても眩しく見えた。
『突然の君の訪問。』より
目が覚めると君がいた
風を纏わせカーテンがゆらめく
君は起きた僕を見て笑った
風が心地良い
ヴァイオリンの音色とともに
誰もいない教室のなかで
僕は再び微睡んでいく
『君の奏でる音楽』より
いつも君は遠くを見ている
話をしていても
遊んでいる時も
ふと気がつけば
君は遠くを見ている
その眼はとても儚げで
しっかり掴んでいないと
泡沫のように消えていきそう
私はいつかきみがいなくなるんじゃないかと思い
怖い
ほら
今日も君は別のなにかを見ている
『視線の先には』より
明日からダイエット?
明日から勉強頑張る?
いつかやる
いつか出来るようになる
いつか、、、
いつか、、、
いつかっていつ?
誰も何も待ってくれないし
代わってくれないよ?
だってそれができるのは
私だけだもの
『私だけ』より