“月が綺麗ですね”
そう言ってにこっと笑う君
これは、、、これは、、、
さて これにはどう返そうか
期待交じりの瞳で僕を見つめる君
もう答えを知っているようだ
僕は一度月を見て、それから君に手を差し出した
“それでは今日は遠回りして帰りましょうか?”
一瞬きょとんとした顔をして、それからまた笑顔
になった
“もちろん”
『I love you』より
キュッ
キュッと
体育館にシューズの音が鳴り響いてる
インターハイまであと少し
そのためレギュラーとなった俺は毎日のように朝6時か
ら練習に参加している
“おい 〇〇‼︎ 時間だ‼︎ 終わるぞ‼︎”
そう声をかけられてボールを片付けた
非常口の扉を全開にし仲間と腰をかけた
涼しい、、、
風がよく通るそこはチームでよく取り合いになる
風に身を預けると遠くから蝉の声が聞こえた
あぁ地元を離れてもう2年は経つ
あの子は元気にしているだろうか??
休みの時はいつも一緒に遊んでいたあの子
秘密基地を作ったり、親父が使っていないトランシー
バーを勝手に持ち出してよく遊んでいた
あのトランシーバーはどこに片付けただろうか
部屋に戻ったら探してみよう
インターハイが終われば地元に帰ってみるか
あの太陽みたいな笑顔をもつあの子に会いにいこう
『太陽みたいな』より
何度だって挑戦してやる
だって今しかできないんだもの
後で後悔しても遅いって?
何言ってるの?
後なんてない
今がその挑戦(とき)だ
“そんな言葉なんていらない‼︎”
そう言って君は出て行った
何がいけなかったのだろう
僕はただ君に寄り添いたかっただけなのに、、、
ただ確かに僕は彼女が可哀想だと思った
けれど、それは表面だけだったのかもしれない
彼女は強い人だった
そんな彼女が弱音を吐いたとき
なるほど
きっと寄り添うのではなく、引っ張りあげて欲しかっ
たのかもしれない
共に憂うのではなく、背中を押して欲しかったのかも
しれない
僕たちには足りないものがたくさんある
それを共に補っていかなければならない
なかなかに骨が折れそうだ
でも、彼女だからこそそうしたい自分もいる
さて、そろそろ扉の前で落ち込んでいるであろう彼女
を迎えに行こう
一歩踏み出せるように
また前を向けるように
そっとドアノブに手をかけた
_________________Another Story_____________________
“そんな言葉なんていらない‼︎”
そう言って私は部屋を出た
やってしまった、、、
彼は何も悪くないのに
私に寄り添ってくれただけなのに
それでも、私はこれ以上憐れまれたくなくて
つい怒鳴ってしまった
彼はとてもやさしい人だ
人の気持ちに寄り添える人
彼は“悲しい気持ち”に寄り添っただけ
傲慢なのかもしれない
でも、私は背中を押してほしかった
“君ならできるよ”
と笑顔で言ってほしかった
それだけで私は頑張れる気がした
まだ心が重いけど、突然怒鳴ってびっくりしている
であろう彼に“ごめんね”と言わなければいけない
目の前にあるドアノブをゆっくり握りしめた
ハラリ、、、
また一枚落ちていく
木々は少しずつ冬支度をしているようだ
落ちた葉もそれで終わりではなく
春に向けて栄養をまた木々に送り届けている
綺麗な花を咲かせるため
いらないものなんてない
季節を巡らせるための準備をしているだけ