愛があれば何でもできる?
上目遣いに君は僕にそれを聞いてきた
何気なく、冗談めいた口調だったけど
何かを試されているような
そんな感じがした
僕は君を愛している
君のためなら何だってできる
こっちだって
冗談めいて返せばいいのかもしれない
でもそう簡単に返せなかった
愛があるからこそ
何でもできはしない
そんな気がするんだ
後悔
過ぎてしまった時間は戻すことはできない
ああすればよかったこうすればよかったと
どんだけ思い悩んでも時は戻らない
君も戻らない
自分は選択を間違えてしまった
それに気付かずに思い上がっていた
すべて失って君がいなくなって
ようやく気付いてしまった
過ぎてしまった時は戻らない
自分だけが楽しいと思っていた
あの日々は戻らない
喪失感に苛まれながら
前を向くことしかできない
風に身をまかせ
深夜の屋上は強い風が吹き抜けて
身を切るような寒さである
男はそんな状況にも一切動揺することなく
眼下の街並みを見下ろす
この街にずっと探していた運命の人がいる
同時に因縁のあるあいつもいる…
波乱含みの予感しかしないが
この風に身をまかせてみるのも悪くない
しばらくは様子を見るか
唇の端に薄く笑みを浮かべて
男は風になぶられていた
失われた時間
目が覚めると十年経っていた
何を言っているのかわからないだろうが
自分も何が起こっているのかわからなかった
最後の記憶は自分でもおぼろげで
事故にあって昏倒していたと聞いたけれど
その事自体夢の中の出来事のようだった
それでも確かに十年経っていたし
自分の身体も十年分歳を取っていたし
寝たきりだったせいで体力皆無ときたもんだ
眠っていた間にたくさんのものを失っていた
だけど失われなかったものもあった
君はこんな絶望の中でもずっと待ってくれていた
君のためにも失われた時間を取り戻していきたい
子供のままで
ようやく寝息を立て始めた君に
ひとまず安堵のため息を付く
なんの呪いか
突如子供の姿にされてしまった君
やんちゃに走り回って
いたずらばかりで
どっと疲れてしまった
これからどうすればいいのだろう
どうすればこの呪い
解けるだろうか
だけど……
君の穏やかな寝顔を見ると
このままのほうがいいのでは
そんなことも思ってしまう