踊りませんか?
フロアには優雅な音楽が流れ
人々は思い思いに談笑している
貴族の社交場はきらびやかでいて
みな腹の中を読み合っている
だから来たくなかったんだ
遠巻きから送られる値踏みするような視線
下心見え見えの挨拶をしてくる人々
そんなものから逃げるように
人気のないバルコニーに出る
おどろいたことに
先客がいた
年の頃も自分と同じくらい
彼女もまた
親に言われるままこの舞踏会に参加し
貴族たちの腹の読み合いに疲れたクチだろう
だからだろうか
つまらなさそうに空を見る彼女に興味が沸いた
「よろしければ、僕と踊りませんか?」
思わず声をかけていた
彼女は驚いていたが
嫌がらずに手を差し出してくれた
部屋の中から漏れてくる微かな音色に合わせて
君と僕は人知れずステップを踏んだ
巡り会えたら
まだ見ぬ君へ
想いを馳せる
季節は巡り
街は刻々と姿を変えていく
日々少しづつ違う場所に立ち
街並みを見つめる
まだ見ぬ君
顔も名前も知らぬ君
巡り会えたら
それは運命かもしれない
奇跡をもう一度
祈る
目を閉じて
組み合わせた手は力がこもりすぎて
知らず、震える
懇願に近い祈り
奇跡なんて、何度も起こるものじゃない
そんなこと理解っている
だけど、諦めきれない
自分が奇跡的にこの世に戻ってこれたように
貴方が帰ってくる奇跡を信じて
無力な自分には祈ることしかできない
けれど
神様、どうか
どうかもう一度奇跡を起こしてください
たそがれ
空が赤く染まっていて
先程まで長く伸びていた自分の影も
曖昧になっていく
目の前に立っているのは
よく見知った姿形
だけど
感じる強い違和感
昼と夜の狭間の世界で
邂逅することにきっと意味はあるのだろう
だから問いかける
「誰だ。お前は」
この戦いに決着がつくまで
きっとこの狭間から抜け出すことはできない
きっと明日も
それはささやななおまじない
ただの気休めかもしれないし
気分の問題
だけど
言葉には力があるっていうし
そういうことを信じたい
だから毎日寝る前に言葉に出すんだ
きっと明日もいい日になるよ