静寂に包まれた部屋
二枚目の扉を閉めると
外の喧騒が嘘のように辺りは静けさに包まれる
この部屋で
彼女はいつものように僕を待っていた
ベッドに腰掛けているが
その双眸に光はなく
ぼんやりと僕を見つめている
だけど
どんなにゆっくり閉めても小さな音を立てる扉
君の近くに行こうとする僕の些細な足音
それだけで君はびくりと肩を震わせ
怯えたように後ずさる
この部屋はいつだって静かでいなければならない
僕は静かに君を見つめることしかできないし
君が何か言葉を発することもない
こんなところに閉じ込めていたって
君の心は帰っては来ない
それでも
少しでも君を延命させたいと静寂を保ち続けるんだ
別れ際に
君のことが忘れられない
もう二度と会うことは叶わないのに
会いに行ってはいけないのに
君はまだどこかで元気にしているのかもしれないし
もうこの世にはいないのかもしれない
だけどそれを知るすべすらなくて
「私のことは死んだと思って」
別れ際に君に言われた言葉が
いつまでも僕の心に呪いをかけ続けている
通り雨
ついてないなぁ
ぽつぽつと水滴を感じて
慌てて軒下に避難するも
みるみるうちに大粒の雨が
地面に叩きつけられていく
こんな時に限って
傘を持ち合わせていないし
時折吹く突風に
傘なんか役には立たない
気が付くと
同じ境遇の人たちが
続々と軒下に走り込んでくる
会話はないけれど妙な一体感
どのくらい経っただろうか
降り出した時と同じように
唐突に雨は止んで
差し込む光に導かれるように
人々は解散していく
また降られないうちに
早く帰ろうか
秋
ようやく連日の暑さも収まってきた今日このごろ
お気に入りのパーカーを出して
かばんもダークブラウンのものに変えて
うきうきしながらスイーツを買いに行く
並んでいるメニューも
芋に栗、紅茶やキャラメルのフレーバー
甘くて優しい香りに包まれて心地良い
すぐに寒い季節が近付いてきて
色付いてきた木の葉も
きっとすぐに落ちてしまうけれど
私は今のこの季節が大好きだ
窓から見える景色
切り抜かれた青に、滲んで混ざっていく白
それが、唯一見える外の世界
青と白の絵画は
日によって混ざり合ったり
離れていったりして
私は、飽きもせず見つめていた
私が見ているのは
貴方が見ている景色のほんの一部分だけど
見えていない部分が多い分
想像力がかきたてられる
この青の向こう側に
無限の世界が広がっている
いつかこの窓の向こう側に行きたい
まだ見ぬ貴方は、迎えに来てくれるでしょうか