夜が明ける、陽が昇る。
水平線の彼方から、
眩しい明日が顔を出す。
風を興し、夢を覚ます。
地平線を踏み越えて、
新しい私に出会うため。
一人で物思いに耽る時間は、
今の私には必要なくなった。
貴方のことを考える時間は、
最早昔の私のものになった。
日々の習慣は一つ消えたが、
不思議と喪失感は抱かない。
その理由は今隣にいる君が、
その身を以て示してくれる。
言葉は比喩でしかない
どんな気持ちでさえ
正確に表すことなどできない
あなたの心は
あなただけのもの
世界に一つだけの大切な心
そんな個別的なものを
一般的な言葉で伝えようなんて
不可能でしかない
でも人は解り合いたくて
必死に言葉を紡ぐ
それはただ只管に美しい
よく来たな、娘よ。さぞ驚いたであろう。
怖がらずともよい。ここでは、誰もそなたを害さぬ。
聡いそなたならば、とうに気づいたはずだ。
わたしがそなたをここへ呼んだ理由に。
そなたの父も母も、最早そなたを愛してはおらぬ。
そなたが戻っても、誰もそなたを覚えてはおらぬ。
泣くでない。泣くでないぞ、娘よ。
彼らがそなたに為したことは、決して許されてはならぬ。
わたしがそなたを、そなたを害する者から護ってやろう。
そなたの瞳の中の涙を、ここで癒すがよい。
さあ、あれが見えるか。
あれはそなたと同じ運命に生まれた子供だ。
見よ、楽しげに踊っている。心の澱を解き放って。
そなたも、あの子と共に踊るがよい。
娘よ、わたしは祈ろう。そなたらのために。
踊れや踊れ、愛しき子。美しき旋律が、そなたに囁く。
「ねえ鏡さん、この世で一番美しいのは誰?」
魔女様のいつものご質問。答えは勿論決まっているわ。こう答えない人が果たしてこの世にいるのかしら。
「それは勿論、魔女様ですわ」
そういえば、有名なおとぎ話に出てくる鏡はここで「それは白雪姫です」って答えるらしいけれど、それは本当?
白雪姫。森の奥で動物や小人たちと慎ましく暮らしている薄幸の美少女だという噂だけれど、その白雪姫ならさほど美しくないわ。皆、噂を信じすぎなのよね。実際のところは、色白すぎて逆に不健康を疑いたくなるほどよ。
やはりわたくしの魔女様の方が百倍お美しいわ。
「魔女様はいつでも世界一の美しき女性でございます。
わたくしが保証いたしますわ」
「ありがとう、鏡さん。あなたもいつも綺麗よ」
魔女様からのお褒めの言葉を頂けるなんて、どれほど光栄なことかしら。白雪姫はこの喜びさえ知らないんですもの。世間知らずなお嬢さんにはきっと一生分からないわね。
わたくしはいつまでも魔女様にお仕えし続けるの。それがわたくしの唯一の望みよ。