ススキの楽しみ方
ススキは、秋の七草の一つ。
近所の人で、ススキを七草粥に入れて旨い旨いと頬張っている人がいた。
ススキを食べ物と捉える発想は斬新だと思う。だが私は食べようとは思わない。あれは歯ごたえがとても固そうで味もなさそうだ。
恐らく、飾りとして楽しむのだろうな。あの近所の人みたいに直接食す人はごくごく一部の人だろう。
それに、ススキは見る方が趣深い。月に照らされ金色に輝く花。時々ある赤色のススキも、月の光で可憐に輝く。
秋にもお花見があるとしたら、必ずススキを見ていたことだろう。
脳裏に願いを
・脳裏に願いを込めて、言葉にして、何回も唱えるように呟く。すると行動に繋がり、やがて運命をも変える。
歴史上の有名な偉人はそのようなことを言っていた。
・では、私もより素晴らしい人生への第一歩として、脳裏に願いを込めてみよう。
一生健康でいられる。
セミリタイアできる。
大切な人と自由に過ごせる。
これが現実なら私はこの上なく幸せだ。
・だが、脳裏に願いを込めることにばかり意識すると、脳は疲れてしまう。
なぜなら、がむしゃらに良いことばかり考えると、悪いことも思い浮かんでしまうからだ。それを止めようと無理やり良いことを考えると、さらに疲れるだろう。
そういう時は悪いこと考えてたって良いじゃないか。人間は陰と陽で出来ているのだから。悪いこと考えてても、いつかは良いことを自然に考えれるようになるさ。
そんな感じで、マイペースに良いことを脳裏に留めておくのが、すんなりと願いは叶いやすいのだ。
空想遊話 『月食の光』
皆既月食が夜空の真上で起こっていた。
淡い白金色の月の弓が細くなり、月が夜空に隠れた。そして夜空の影から少しずつ月が顔を出す。その月光は意外にも強く、周りの雲を照らし、月全体の影が茶色く映し出されていた。
正に空は月を食べていた。空に訊いてみたい、月とはどんな味なのか。もし月見団子のような味ならば、私も食べてみたい。
そんな他愛もない想像を膨らませては、月見団子が食べたいなんて気持ちが強まった。丁度、大福があった。月見団子代わりに食べようではないか。
家に戻った途端、違和感を覚えた。
違和感どころか、明らかにおかしい。玄関に小さな足跡があった。部屋の中は、テーブルの上が少し荒らされていた。
誰かが入ってきたのか?
念のためバットを持ち、部屋の中を探した。すると、カーテンがゆらりと揺れたのが見えた。
意を決して勢いよくめくるが、何もない。まさかあの時のあいつかと思い、下を見るが、何もない。
取り敢えず安堵。…してる場合ではないが。
他もくまなく探したが、侵入者らしきものはいなかった。
何だったのだろう。気持ちが悪いが、何も盗まれてはいないようだし、散らかったテーブルを掃除し、大福を持ってもう一度外に出た。
月は半分顔を出し、さらに夜空を明るく照らした。
その空の下で、家のテーブルの下で、一人の小人が姿を現した。
楠雄である。楠雄は部屋の中をゆっくりと眺め、何かを確信するように小さく頷いた。
“久しぶり。月の光のお陰で君に会うことができた。元気そうで良かった。でも、僕が君に会ったら君は拒絶するだろうね”
楠雄は悲しげに、夜空へと去っていった。
※あの時のあいつについては、
短い小説 『カーテン』を参照。
あなたとわたしの違い
・私は貴方に憧れている。仕事もてきぱきできて、誰とでも仲良くなれて、器用に生きている。
対する私は何もできず、打ち解けれず一人で悩んでばかり。踏んだり蹴ったりだ。
・貴方と私の違いは何だろう?纏めてみるか。
貴方 私
常識人 世間知らず
笑顔が多い 真顔が多い
勉強好き 勉強嫌い
仕事を先に片付けれる 仕事は後回し
要領が良い 要領が悪い
細かいこと気にしない 細かいこと気にする
自力本願 他力本願
拘らない 拘り強い
自分を持ってる 他人に流されがち
…何だこりゃ。
まるで良い言葉と悪い言葉を分けてるみたいだ。
悲しくなってきた。
泣きそうになった私に、誰かが手を差し伸べてきた。
顔を上げると、憧れの貴方がいた。
・貴方は言った。“私は貴方がいたから頑張れたんだ”と。
私は涙が止まらなかった。私は深刻に考えすぎてたようだ。
短い小説 『悲しみをそそる』
上海の、海がよく見えるとあるカフェにて。
一人の金髪の20代の外国人男性がそこで寛いでいた。上海料理は格別に美味しいという話を聞き、いつか行ってみたいと思っていた。念願の夢が叶い、今好きなことをしまくっている。上海料理もこれでもかという程堪能した。上海ガニの旨いこと。あの味は一生忘れないだろう。
夜の一服として寄ったこのカフェで、大好きなコーヒーを飲みながら上海の海の景色を眺める。これもまた素晴らしい思い出となるだろう。我ながらとても贅沢な旅行をしているなと思った。
注文したコーヒーは、深煎りマンデリン。重厚なコク、やや強めの苦味。ほんのりとシナモンの香りが漂う。純粋な茶色が、飲みたい気持ちをそそる。
そそる……
そういえば、この茶色、あいつの髪色と同じだな。
あいつは髪だけじゃなく、顔も仕草も可愛くてとても良いやつだった。いつもはツンとしてるけど、本当は照れ屋で一途なやつで、俺のことしか見なかった。あいつとの時間は幸せだった。この旅行より。でも、いつからか、どうしてなのか、すれ違いが起こって、いつの間にか喧嘩ばかり。
でも、今は後悔しかない。別れを切り出したのは間違いだったかもしれない。
そうだ、この旅行は悲しい気持ちを忘れるために行ったんだった。でも、あいつのことを何も考えずに一人で楽しい思いして、何やってんだろ。
コーヒーに小さな波紋が広がった。気づけば泣いていた。涙でコーヒーが酸っぱくなったが、そんなことどうでも良かった。
彼の背中は哀愁と悲哀に満ち溢れていた。