タイトル【タイムマシーン】
文字数 1690文字くらい
どういう縁だったか忘れたが、私には科学者の知り合いがいる。性別は男で、歳は慥か80を越えていたと思う。傴僂のように背が曲がっており、梅干しとブルドッグを足したみたいな顔が特徴的な爺さんで、その人物を、私は博士と呼んでいる。
その博士からタイムマシーンを発明したという旨の報せを受けたので、見に行くことにした。博士の家は私の家から直線距離で約4㎞、南に下ったところにある。自転車を走らせれば10分とて掛からない距離だ。
自転車を漕ぐと、やはり10分で彼の家に着いた。邪魔にならないように建物の横に自転車を停めた。
異人館にも似た瀟洒な館は、意外にもボロボロだ。ドアは付け直したのか、比較的新しい。そのドアにつけられたノッカーを敲いてみるが、返事はなく、返ってくるのは鼓膜を震わす耳鳴りだけである。
研究所の方に居るのかと考え直した私は、研究所──ガレージを改造したもの──へ向かった。
中に入ると案の定博士がおり、やっと来たか、と胴間声を上げた。
「そのヘンテコなものが、件の発明品ですか?」
博士の側にある、高さ3m前後の、何とも形容し難い機械を指差して質す。
「うむ、これがそうだ。科学に造詣のないお前さんに仕組みを説いても無駄だろうから、実際に使って見せよう」
そう言って、博士は機械に乗り込んだ。
「このタイムマシーンはな、自身が存在する時代にしか行けん。自身が死亡した後の時代や、自身が生まれる以前の時代には行けないし、更に言うと、日付単位までしか細かく設定出来ない。つまり、今から1分後とか、1時間後の未来には行けず、一番近い未来だと翌日、過去ならば昨日になるということだ」
「随分と不便なんですね」
「だからこれから未来に行く。未来の儂なら、その欠点も克服しているだろうからな。取り敢えず、100歳の儂に会いに2044年に設定して──」
何やらガチャガチャと操作してから、では行ってくる、と言い、博士は仰々しくボタンを押した。
──しかし悲しいかな、何も起きない。
「20年後、博士は死んでるんですね」
「うむ、では2043年はどうだ?」
またガチャガチャと操作してからボタンを押すが、何も起きない。
「99歳になる前に死んでるんですね、博士」
「むむむ、ならば2042年だ!」
──また何も起きない。
そうして、1年ずつ調整するも変化はなく、19回目の応酬が繰り返された。
「博士、来年には死んでるんですね。これじゃあ、タイムマシーンの改善は無理なんじゃないですか?」
「むう、天才の儂なら1年でどうにかするだろう」
博士はどこか苛立った声で返事をする。
「2025年! どうだ‼︎」
やはり変化はない。次は今年の日付で調整を始めるが、何も起きず、日付が現代に近づくにつれて、顔を赤くし、額に血管が浮かび上がっていく。
「明日ァ!」
──変化はない。沈黙が垂れ込むと同時に、博士の顔は邏卒の如く歪み、憤慨した。
「何でだ! 儂の理論に間違いはない筈だ!」
「そうは問屋が卸さないと言うじゃないですか。タイムマシーンなんて、やはり夢物語だったんですよ」
「どうしてだ! うぬおおおおおっ」
耳を劈く怒号。だが次の瞬間、それは、うぬんっ、という何とも間抜けで、頓狂な声に変わった。どうかしたのだろうかと思っていると、博士はバランスを崩し、タイムマシーンという名の巨大な鉄屑から滑り落ちた。
「どうかしました、博士⁉︎」
慌てて駆け寄り彼の身体に触れる。
何か違和感があった。
──もしや。
鼻腔に人差し指を近づけた。
──やはりか………
博士は呼吸をしていなかった。頸に触れ、脈を確かめるも、どうやら止まっているようで、瞳孔も完全に開いていた。
怒りが度を超え、頭に血が上りすぎたのか、博士はたった今、私の目の前で死亡したのだ。
「そういうことか………」
タイムマシーンは多分成功していたのだろう。
『自分が存在する時代にしか行けない』
博士は“今日”死んだために、明日(未来)には存在しなかった。だからタイムマシーンは起動しなかったのだ──
特別だって気付くのは、いつだってその少し後。
ずっと続けば、なんてのは間違い。
限りがあるから特別なんだ。
小さな村に四兄弟がいた。
ある日彼らの前に、村で一番美しい女が来てこう言った。
「今から一週間後、この中の誰かがあの太陽を私にくれたなら、私はその者と結婚しましょう」
その言葉を聞いた男たちは太陽を手にするべく、それぞれ行動を取った。
長男は「太陽は海に沈むのだから、海中を探せばいい」と言って、船に乗って海原へと旅立った。
次男は「地平線の彼方に太陽が落ちるのを見た。ならば、地平線の向こうへ追いかければいい」と言って、徒で大陸を渡る旅に出た。
三男は「太陽は東から昇り、西に沈むと教わった。その周回軌道上に網張れば、漁をするように捕まるのではなかろうか」と言って、巨大な網を担いで高い場所を目指し、村を出た。
四男は「あげるなら、とびっきり美しいものを」と言って、幾つかの道具を持って丘に出かけた。
それから一週間後、四兄弟それぞれ何かを手に、村へ帰って来た。
長男は言う。
「これはマンボウといって、海の太陽魚と呼ばれる魚にございます」
次男は言う。
「これはヒマワリといって、見た目の通り太陽にそっくりな花にございます」
三男は言う。
「これはタイヨウチョウ科の鳥で、名前に太陽とあるのだから、きっと太陽の鳥にございます」
四男は言う。
「これはあなたのために描いた、世界でたった一つの絵であり、たった一つの太陽にございます」
四つの品を見てから、女は「あなたが一番素敵ね」と言って、四男を選んだ。
もう会えないと解ったら あなたに会いたくなって
瞼の向こう側に探しにいくよ
恥ずかしくて言えなかった 今は沢山言いたい事
大事だった事失くして知るよ
あなたが居た事 あなたと居た事
過ぎていく時間 時々忘れるけど
他人事にはしないよ 何度でも思い出すよ
いつか会えなくなるから 出来るだけ側に居るよ
独り言にはしないよ 沢山話をしようよ
自動録画 頭ン中
お揃いの記憶は多い方が良い
なのに思い出すのは
割とどうでもいい事ばかり
それも こっそり奪われていく
ハロー バイバイ 繰り返して
そうやって来たんだ ここまで
約束なんて 要らないでしょう
思い出せたら また会えるから