逃げようとして後退り その内ぐるりと周り
辿り着いたのは同じ場所
ただいま、どうやら戻って来たみたい
たまにちょっと乱れて 気が付いたら元通り
命の音色 重ねて繋がった世界
幾つか失くなったとしても星は廻る
それが普通で とても当たり前の事
暗くて良かった だって 気付けたから
普段は使わない 「ありがとう」
少しだけ素直になれた気がするよ
彼はいつも眉を顰めている。
ちょっと怖い。けど、何だか少し大人っぽい。
どうして睨むの、と訊いたことがある。
すると彼はこう答えた。
「目が悪いから」
眼鏡を掛けたら、と私が言うと
「眼鏡は見え過ぎるから嫌い」と言う。
「じゃあコンタクトは?」
「付けるのが怖い」
面倒なヒト、と思ったと同時に、
意外とかわいいトコあるな、と思った。
朔の夜に咲く花、鯨飲馬食の態でどんちゃん騒ぎ、あちこちで踊る人に唄う人で、街は騒がしい。飲食店で私が食事をしていると、近くのテーブルから侃侃諤諤と話す聲がした。何を話しているのだろう、そう思って調律師の如く耳を澄ましてみる。
「夢ってのは子供の戯言だ。大人になると現実を知って、出来ることと出来ないことが分かる。そうすると大言壮語も憚られる」
「それは君、そもそもが間違っているよ。夢は飽くまで見るものであって、叶えるものなんかじゃない。手に入らないから語るんだ。大人になったって、手に入らないものは沢山あるだろう。出来ないからって、嘯くことすら遠慮する理由がどこにある」
「夢は醒める。叶えようとする情熱も、不可能だと知ったら冷めてしまうじゃないか」
「二度寝すれば、続きとはいかないものの、夢はまた見れる。醒めたなら、もう一度夢を見ればいい。熱も冷めたなら、温め直せばいい」
「綺麗事だなア」
「人はね、馬鹿にしていた綺麗事にこっそり救われているものなんだよ」
食事も忘れてスッカリ聴き入ってしまった。お陰で夕餉は死んだかのように冷たい。言葉を反芻する。
『醒めたなら、もう一度夢を見ればいい。熱も冷めたなら、温め直せばいい』
なるほど、慥かに温め直せばいいな。しかし飲食店だとそうもいくまい。外食したことを少しだけ後悔した。
そのままだって良いんだよ
変わらない事で守れるものだってあるから
変わりたいなら どうぞ
でも一つだけ どうか忘れないでね
どれだけ変わろうとも君は君のままだよ
怒っているのか、地面が大きく揺らいだ。
悲しいのか、街を呑み込むほどの涙が流れた。
いくつかの篝火が消えた。
殺された街。
泥に塗れた人形。
奪われた思い出。
温もりなき部屋。
祈りの歌。
生命の証明。
どこまでも正常な世界。