野菜大魔王

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 朔の夜に咲く花、鯨飲馬食の態でどんちゃん騒ぎ、あちこちで踊る人に唄う人で、街は騒がしい。飲食店で私が食事をしていると、近くのテーブルから侃侃諤諤と話す聲がした。何を話しているのだろう、そう思って調律師の如く耳を澄ましてみる。

「夢ってのは子供の戯言だ。大人になると現実を知って、出来ることと出来ないことが分かる。そうすると大言壮語も憚られる」

「それは君、そもそもが間違っているよ。夢は飽くまで見るものであって、叶えるものなんかじゃない。手に入らないから語るんだ。大人になったって、手に入らないものは沢山あるだろう。出来ないからって、嘯くことすら遠慮する理由がどこにある」

「夢は醒める。叶えようとする情熱も、不可能だと知ったら冷めてしまうじゃないか」

「二度寝すれば、続きとはいかないものの、夢はまた見れる。醒めたなら、もう一度夢を見ればいい。熱も冷めたなら、温め直せばいい」

「綺麗事だなア」

「人はね、馬鹿にしていた綺麗事にこっそり救われているものなんだよ」

 食事も忘れてスッカリ聴き入ってしまった。お陰で夕餉は死んだかのように冷たい。言葉を反芻する。
『醒めたなら、もう一度夢を見ればいい。熱も冷めたなら、温め直せばいい』
 なるほど、慥かに温め直せばいいな。しかし飲食店だとそうもいくまい。外食したことを少しだけ後悔した。

1/13/2024, 1:40:24 PM