「ふう。これでよし、っと。
目を開けていいわよ、シンデレラ。鏡を見てごらんなさい。
……どう? 戸惑ってしまうくらい、すごいでしょう?
魔法で施したメイクも髪型もドレスもアクセもカンペキ、でも昨今のご令嬢が好む『カラフル』さは控えめにして、けれど野暮ったくはない、むしろ、あなたの慎ましさによって育まれた、品のある美しさを際立たせるように仕上げたわ。
それと、このガラスの靴。
甲の高さもワイドもあなたにピッタリなこの靴は、あなたの、人よりも少しだけ臆病な心を浮き立たせるように、あなたの足取りを軽くしてくれることでしょう。
さあ! わたくしの魔法は、これでおしまい。
今度は、あなたの番よ!
フフッ、大丈夫。
あなたはただ、いつものあなたでいればいいだけ。
あなたがいつも他の人々へと向ける、その『優しさだけで、きっと』あなたは誰よりも美しくいられる。
それはあなたにしかない、あなただけの美しさなのだから。
ほーら! あなたの大好きなかぼちゃを、馬車にしておいたから、さっそく乗り込んで……」
「…………」
「……シンデレラ?」
「まっ魔女さま、あのっ! こんな直前まで言えなくて本当にあの申し訳ないんですけど、わたしなんかが舞踏会とか絶対絶対無理です、だって知らない人がたくさんいるところにわたし一人で? ってそんなの想像しただけでも震えが止まらなくって無理無理ムリ、無理オブ無理、絶対にどなたかのご迷惑なってしまいますからっ、だからごめんなさい、お手をわずらわせちゃって本当に本当にごめんなさいなのですが、わたしはっ」
「あーっ、そうそう、これ忘れてた!
体の内側からキレイになる成分てんこ盛り、魔女印の高級美容ドリンク!
はいはいはーい、四の五の言わずにぐっと、ぐぐーっと、いっちゃってー!
(ボソボソ)引っ込み思案なあなたのために、気分が否応なしに高揚するプチ妖しい成分配合済み……いえ、ホホホッ、なんでもないの。
このドリンクは歯のホワイトニングも兼ねてるからねっ、ほら、眩しい笑顔を、見せてちょうだいっ?」
「……そうだ、壁の花! 本で読んだことがあります、わたしみたいなぼっちが他の方々のお邪魔にならずに、身をひそめるのに、うってつけの場所!
魔女さま、わたし、立派な壁の花になってきますっ! ニッコリ(キラーン)」
「っ、壁、の……? まあいいわ、行く気になってくれたんだし、とにかく……いってらっしゃい!」
「行ってきます! 会場での滞在時間は10分ほどでよろしいですよねっ?」
「王子の2、3人落とすまで、帰ってくんなぁっ!」
このよく晴れた日の、乾いた『風に乗って』行き着く先が、果たして『楽園』なのかどうかを、まさにいま、これから旅立とうとしている、たんぽぽの綿毛たちは、知る由もない。
フェンスの向こう側、人の手の届かない場所で、美しく真円を咲かせた綿毛たちを眺めながら、けれどそんな、皮肉めいた同情や憐れみも、数歩先を行く私は忘れてしまうのだろう、これまでのように。
私に出来るのは、自らの人生のほんの一瞬を彼らに、わずかに傾けることだけ。
(どうぞ、よい旅を)
胸の内からほろり、と溢れた、たわいも無い祈りは、決して同情でも憐れみでもなく。
可憐で美しい、と感じる気持ちを、私にくれた者へ、彼らにとっておこがましくはない程度に、彼らの行く末を案じることは、恐らく、許されるはずなのだ。
☆☆ 『刹那』を使って例文を作ってみよう ☆☆
<その1>
床に置いていた荷物を、何気なく持ち上げようとした、その刹那──。
「あー……腰。やっちまったねぇ」
「魔女の一撃、ですか……」
<その2>
大型トラックとのすれ違いざま、顔面に風を受けてまばたきをした、その刹那──。
「目がっ、コンタクトレンズがぁああっ!」
「異物込みでズレたときの、あの絶望感よ……」
<その3>〜脳内会議中〜
「ねぇねぇ、痛い痛い! ってなるような例文は、もうやめません?」
「ってかさぁ、どっちの例文も「瞬間」でよくね?」
「んあぁ! 『刹那』ならではの例文なんて思いつかないぃ、さらっとハードル高くすんな!」
「……刹那・F・セイエイ」
「某アニメキャラの名前ねー、でもそれ、例文じゃないからね?」
「最初に思い付いて、でもずっと口に出せなかったから、これで本望だ!」
(⚠️BLです、1500字!)
ー➖ ー➖ ー➖
生まれ故郷の家族には早々に見限られ、半ば天涯孤独。
突出した能力もなく、人を惹きつけるほどの魅力もなく、ただ惰性で、流されるように生きてきた、こんな自分には、生きている意味なんて、少しもない──。
一つ大きな仕事を采配し成功させた部下を、ねぎらうための酒の席で。
彼は確か28か29歳だったか、30代も後半の俺からすれば、まだまだ眩しい若さの部下が、あまりにも俺の仕事っぷりやら人柄やらを持ち上げてくるから、それが苦痛になってきた俺は、「いや、もうそういうのは、よしてくれ。俺はそんな柄じゃない」と、彼にそうたしなめて──確か、そんな始まりだったはずだ。
なのにあのときの俺は、いつの間にか、訊かれてもいない身の上話や愚痴なんかを、コイツにベラベラとしゃべっていて、そして。
「『生きる意味』、ですか……」
彼は考えるような素振りを見せたあと、顔を上げ。
それから俺の視線を捉え、そして目をしっかり合わせてから、こう言ってみせたのだ。
「じゃあ、それなら。これからは僕が、主任の生きる意味になる。そういうのは、どうでしょう?」
社の女性たちから散々アプローチを受けているらしい彼は、パッと見は体の線が細く、その上にいまどきの、中性的で色白なマスクが乗っかっているのだが。
……そんな、彼が?
男で、しかもオッサンであるこの俺に向かって、そんな口説き方をしてくる、とか……。
いったいこれは、どういう事態なんだ???
「……そうして。僕のおかげで、生きる意味というものを知った主任は、僕と二人で末永く、幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」
「なんだよ、それ。ハァ……」
……そうして、ため息をつきながら、ふと我に返れば。
彼は毎週末決まったように、俺の部屋に入り浸るようになっている、という──にわかには飲み込めない、現実があって。
俺の横で当たり前のように添い寝、というか同衾している、その色白の首の喉ぼとけから目が離せなくなりながら、俺はここに至って、ようやく気がついた。
そう、この部下は──まるで、アダムとイブの前に現れた、あのヘビ。
アダムとイブに『善悪』の知識の木の果実を差し出して誘惑してきた奴。
あのときの俺は、このヘビの奴に、すっかりそそのかされてしまったのだ。
そして、彼から受け取った禁断の果実、生きる意味、とかいう名前のその味を知り……そう。
だから、そのせいだ。
この胸のあたりにくすぶる、違和感、というか……。
「……苦しいんだよ」
「え? いま、なんて言いました?」
この男が、俺のことばを聞くためにでもなんでも、こうして、好んで身を寄せて来る……その理由に、未だに確信が持てないから。
「ああ、いや。……喉ぼとけ、って。英語でなんて言うか、知ってるか?」
「Adam's apple。アダムのリンゴ、ですよね?」
なんだよ即答かよ、優秀な部下め。
答えながら俺の喉ぼとけに触れる、彼の手が冷たくて、こそばゆい。
「あー……もういい。めでたしめでたしでも、夢オチでも、なんでも好きにしてくれ……」
「夢オチ? ……ああ、二度寝ですか? なら、僕も一緒に」
身を添わせてくる彼に、しょうがなく俺は、場所を開けてやり。
彼の体を抱え込んで、手の冷たさとは反対の、生きている肉体の熱を受けとめる。
……ああ、クソッ。
生きる意味なんてもの、そんなもの、知らなければよかったんだ。
この温かさはいつか、この男が俺に愛想をつかせば、簡単に失われてしまう。
なのに俺は、その味を知る以前には──もう決して、戻れないのだ。
『流れ星に願いを』叶えてもらう、とはよく聞く話。
しかし、流れ星が消えるまでに3回願いを言う、っていうあの謎『ルール』は、いったい、どこのどなたが言い始めたことなのだろう?
そもそも、生まれてこの方都会っ子である当方にとっては、流れ星の在る星空とは、なにぶん縁遠いものすぎて、なのでこのお題を拝見したところで「はぁ。流れ星ですか、そうですか」などと、気の抜けたようなことしか言えないし、ネタだって思いつかない(←本音)。
生涯を振り返っても、流れ星を見た記憶などなく──いや、あったかな? わかんない。
まぁどちらにしても、いままでもこの先も、流れ星になにかしらの願い事をつぶやく、そんな機会なんか、まず訪れないのだから……。
とか言いつつ。「金、カネ、マネー」くらい短ければ成功するかしらね? なんてなことを、意外と、頭の隅っこでもない場所で考えてしまう……これは、人のサガってヤツ!