「陽菜〜、今日は『バレンタイン』だからね、パパ、チョコ買ってきたよ〜💕」
「!! ほんとにー? パパだいしゅき〜!」
「っっ……パパも、陽菜が大好きだぞっ。さぁほら、いろんな味が入ってるのにしたんだ。あーでも一度にたくさんはダメだぞ〜。今日は2個までな?」
「わかった! んとね、これにしゅる!」
「え、チョコミント? 買ってきておいてアレだけど、5歳にはどうなんだ、この味…」
「みじゅいろなのー、りょーじくんにあげるのー!」
「味じゃなくて、個包装の色か…って、りょーじくん?」
「りょーじくん、みじゅいろ! バレンタインだからっ」
「……写真立ての前にチョコ置いて、まるでお供え……いや推し活か。にしても、5歳で推し活って……まぁ陽菜が喜んでるなら、百歩譲っていいけども。でもなー、パパが買ってきたチョコを、他の男に……」
「あのね、これっ。赤いの、パパにあげるっ。バレンタインっ! パパしゅき〜、チョコありがとー!」
「っっ、パパにも? パパにもチョコくれるのっ泣? うわーん、陽菜ぁ〜っ💕」
「うわっ、パパ?! もう……泣いちゃー、めっ!」
うっわ〜。90歳を超えてから推しに出会えるなんて、思ってなかった!
この人生も捨てたもんじゃなかった、終わりの終わりにこんなご褒美があるなんてね!
ワタシが生きてるうちに、生まれてきてくれたこと。そしてこうして、ワタシが推しを見つけられるように、光り輝く存在になってくれたこと。
この世にはこんな奇跡がある、でもね。
惜しむらくは──ワタシは、推しの成長を見届けられない。
この前、余命宣告を受けちゃったから。
……なんだけど。
ワタシ……頑張ってみるから!
ババアの底力振り絞って、念じてやる!
とにかく超特急で、生まれ変わりたい!
推しがまだ生きてこの地上にいる、この時代に……神様仏様、お願い!
だから、ワタシが生まれ変わるまで──お願い『待ってて』、ワタシの最推しよ!
そのままそこで、光り輝いていてー!
……ってなことを思い出したのが、ついさっき。
公園のブランコでコケて、頭打って、それがきっかけで思い出したんだけど……あーあ、一緒にいたパパを、すっかり泣かせてしまった。
パパの言った通り、ちゃんとブランコが止まってから降りたのに。
子どもって本当、なんでもないトコでコケたりしちゃうんだよなー、怖い怖い。
ま、それはいいとして。
それより……。
神様仏様、グッジョーーーーブ!
ありがとう!
ありがとうございまーす!!
現年齢、5歳!
西暦で確認したところ、本っ当にすぐ生まれ変われちゃってたので、タイムラグはなんと、たったの5年……いやもう、ちょー優秀すぎん?
前世で17歳だった推しはいま、22歳!
まずはパパのタブレットを拝借して、現状を確認しなきゃだよね!
「パパー。ひな、ころんじゃって、ごめんね?」
「ごめんねって、そんな泣……いやいやいや、パパが全部悪いんだ、うううっ」
「ひな、もういたくないよ! パパ、なかないのっ」
「ふううっ、よし、もう泣かないぞ! ……ああ、そうだ。痛いの我慢して頑張った陽菜に、なにかご褒美を……」
「りょーじくん!」
「……へ?」
「りょーじくん、みるのー!」
「りょーじ……くん?」
「りょーじくん、さがすのー」
「ああ、タブレットで……」
「けんしゃく!」
「はい、検索。えっと……どのりょーじくんかな?」
「あったぁー! りょーじくん!」
「えええ……陽菜はこんなアイドル、いつの間に知ってたんだ……」
「りょーじくんっっ! だいしゅき〜!」
「えっ、そんな……泣いちゃうほど好き?!」
「パパありがと〜! パパだいしゅき〜!」
「陽菜、りょーじくん見れて、よかったなー💕」
「えー。貴女に『伝えたい』ことがあります」
「はい? なにを改まって……まぁ、はい。どうぞ」
「俺と結婚してください」
「……けっこん」
「はい。結婚、です」
「結婚。私と……タクミ?」
「指差して確認しなくても。いまこのテーブルには、俺とアヤしかいないんですけどね」
「っ、プロポーズじゃん」
「はい、そうなります」
「プロポーズを、いま……ここ? 『この場所で』?」
「っ、……はい」
「いつものトコでいっかー、で決めた居酒屋で。生で乾杯して二杯目も飲んで、こうして三杯目に口つけてる、このタイミングで」
「っ、えーと、いろいろ考えたのですが。自分の精神的負担の軽減を優先したら、こうなってしまいました。返す言葉もございません」
「あー違う。責めてるわけじゃなくて……いつもの店で肩の力抜いて、でも二、三杯ひっかけてからじゃないとダメだった、と」
「うん……はい、その通りです」
「それを聞く私は、といえば。ホッケの骨をこうやって、ベロベロッと剥がしたところ……」
「あー……ごめん、タイミング……」
「や、責めてるわけじゃなくてね、ホッケをどう攻略しようか考えてたから、ちょっと思考が追いつかないって言うか」
「何気に俺のことは、冷静に分析してんのに」
「うん、そうなんだけど。自分でもよくわからない、意外と動揺してるのかな」
「……とりあえず。ホッケ、食ってよ」
「……うん、そうする。タクミ、このヘンのトコ、ガッツリ取っちゃって」
「じゃ、遠慮なく……っていきたいトコだけど、よく考えたらそれどころじゃねーわ」
「だよねぇ。私、まだ返事してないし」
「返事……」
「でも、ホッケが冷めていくのも、放って置けないし」
「ホッケ……」
「って、アレ? 私ってやっぱ、タクミのこと、責めたいのかな?」
「あああ……タイミング的に、最悪だったよな……」
「フフッ、そんな、頭抱えなくたって。でもこれって、一生イジれるネタになりそうじゃない?」
「つまりホッケ食うたびに俺は、アヤにイジりたおされるってことで……ん? 一生?」
大きな手が
すくいあげにくるんだ
『誰もがみんな』を
『誰もがみんな』
あの手の中にあって
でもポロリと
指の隙間から
こぼれ落ちたボクには
『誰もがみんな』の
誰もが
気づかない
落ちてしまった
ボクは
どんどん高くに
遠ざかる手の甲を
じっ、と見上げている
『誰もがみんな』には
なれなかったな、って
けれども
あるときは
ボクはあたたかな
手のひらの内側にいて
つまりは
『誰もがみんな』の
みんなの中にいて
指の隙間から
下に見える
小さくなってゆく
なにかを
少しだって
気にしたことはなく
過去なのか
未来なのか
いつかの
こぼれ落ちたときの
記憶を
感情を
忘れてしまえるのだ
『誰もがみんな』になれた
という
ただ
それだけの理由で
君たちはまるで摘み取られ供された花々のようで、この永遠の時を生きる私には、その限られた時間を君たちと共にするのはとても苦しい──だからこそ、花という花はすべて、この身から遠ざけてきた、それなのに。
いまの私はこの手に、君たちという『花束』を抱えている──いずれ後悔するだろう、すべての花々がこの手の中で枯れるのを見る、その未来は遠からず訪れるのだから。
だとしてもこれだけは、伝えるべきなのだ。
縁あって、この私の手の中に留まる君たちへ。
「出会ってくれて、ありがとう」と。