『凍える指先』
凍える指先に温もりを
青白い顔に香りの花を
破れた胸に届く旋律を
鼻歌を口ずさみつつ
淹れたカモミールが
ちゃんと温かいから
ひとりでも
まだ大丈夫
鼻歌を口ずさみつつ
花束と人肌をくれる
誰かしらが無くても
気がつくとそこは雪原のど真ん中で、あたり一面の白。ボクはダウンジャケットの背中に身を預けていて、ダウンジャケットの彼はボクを背負っていても、『雪原の先へ』先へと、軽やかに進んでゆく。彼の足元に目を落とすと、わらじにカンジキを付けていて、ああなるほど、ってボクは思ったんだ。
是非とも冬将軍様にお目通りを、って彼──冬足軽がね、ダウンジャケットのお礼にって、そりゃもう、うれしそうに言うんだ。ボクを背負ってる彼だけじゃない、ほかの冬足軽たちも、ダウンジャケットをすごく喜んでくれて──。
「あー……あれから本当に、冬足軽にダウンジャケット着せてやったのか。ほかの冬足軽たち、てことは人数増えてて、そっちにもダウン着せてやって……夢とはいえ、オマエって律儀なヤツだな」
一面の雪なのにぜんぜん寒くないのはたぶん、ダウンを着込んだ冬足軽たちに取り囲まれてるせいなんだろう。お揃いのダウンジャケットを着た彼らは、楽しそうに歌なんか歌っていて、もうすぐ着くから、ってボクを励ましてくれて。雪原を抜けると川があって、その川を渡れば、冬将軍の陣が……。
「んん? 川を渡るってのは、なんか……あ、体温計鳴った……は? 熱、ぜんぜん下がってねぇじゃねえか! ちょ、ストーップ、冬足軽どもに全隊止まれ、って号令! じゃない、解熱剤……ってこれ、昨日の夜の分だろ?! ちゃんと飲め、こんのクソバカヤロウが!」
『白い吐息』
それは
つまり
こんなわたしにも
体温があり
血が通っているのだ
ということ
『消えない灯り』
いつかあなたが
こぼしたことば
とるにたらない
そのひとことが
いくとしつきも
こころにあって
ことばはまるで
きえないあかり
こごえるよるを
あたためるねつ
まようこぶねを
みちびくひかり
こんなちいさな
ともしびなのに
ただそれだけで
ほどけるわたし
クリスマスのイルミネーションに『きらめく街並み』を、私は涙を滲ませながら友野くんに手を引かれ、足早に通り過ぎる。人混みの中、せっかくいい場所までたどり着けたのに、私のコンタクトレンズがズレてしまったせいで──。
「……ごめんなさい」
近くの商業施設内のベンチで。私はやっとズレたコンタクトレンズを直すことが出来て、でも。
「もう痛くない?」
「うん」
「空気が乾いてるし……さっきの風、細かいチリが混じってたから、コンタクトレンズには厳しいよな」
まさに、その風でヤラれた。
「うん。でも……プロジェクションマッピングの時間、過ぎちゃった。私のせいで、」
「気にしてんの? や、コンタクトのズレは急務でしょ。あれ、死ぬほど痛いし」
「え? 友野くんメガネなのに、コンタクトレンズ付けたことあるの?」
そう私が訊くと、友野くんが照れくさそうに言った。
「あー……うん。大学デビューしてやる、って付けてみたけど、一ヶ月で断念した」
「……私も、私もおんなじ! でも、もう半年以上経つのに、慣れなくて。……けど、」
言いかけておいて、続きを言うのをためらったのだけど。友野くんのメガネ越しの視線がそれを許さず、私は続けた。
「メガネだと、ね。嫌われたりなんか、しないかなぁ、って」
「ええ? 自分がメガネなのにそれって、意味不明過ぎだと思うけど?」
「地味メガネ、って呼ばれてた女子としては、その、カレシにそんなこと思われたら、さ?」
「地味メガネ。俺も言われてた……」
「友野くん、も?」
二人して顔を見合わせて、そして──どちらからともなく、吹き出してしまった。
「なんだよなーあれ、メガネかけてるだけでメガネ呼ばわりなの。当時はしょうがねえって思ってたけど、よく考えたら失礼だよなー?」
「だよねえ。地味、って、ただ大人しくしてただけなのにねー」
「……ねぇ。メガネ、持って来てる?」
言われて、私はコンタクトレンズを外し、メガネを掛けてみせ。すると友野くんが私に真っ直ぐに向き直って「地味メガネなんかじゃない。ちゃんと……可愛いから、安心して?」と、やっぱり照れくさそうに言ってくれた。
「俺の視力、相当だぞ?」
「えー? 私だって、視力の悪さで負けたことないよ?」
メガネっ子特有の謎のマウントを取り合いながら、イベントの終わってしまったイルミネーションの下を、手を繋いで歩く。
「俺らってー、裸眼になれば、毎日がイルミネーションだもんなー」
「フフッ。ただの信号なのに、光がフワッと大きくなったりしてね」
うん。世界って、思ってたよりもキレイなんだ。
こうやって……友野くんと、一緒なら。