『秘密の手紙』の情景3篇
その1:
「先月3日のお題は『秘密の標本』だった」
「そうでしたね」
「先々月25日は『秘密の箱』、そして今月は、」
「『秘密の手紙』! 秘密シリーズ、今月もやっぱり来ましたね!」
「我々が予想していたお題ではなかったがな」
「ですねー」
「しかし、箱、標本、手紙。これらが暗示するもの、とは……」
「……ハッ、まさか?」
「……まるでわからんな」
「わかんないんだー」
「が、おそらく来月は『秘密のマント』」
「ええ? なぜ?」
「なんとなく、だ」
「なんとなく、なんだー」
その2:
「あら? この手紙の宛名……タケルくんが書いたの?」
「そう。『秘密の手紙』だから、ママは絶対見ちゃダメ、ですって」
「あら、フフフッ。でも、誰宛てなのかなー? かなりアーティスティックなひらがなだから」
「フフッ。じゃあヒント、12月といえば?」
「……あっ。これが『さ』で『ん』で、」
「正解。つまり、サンタさん宛ての秘密の手紙」
「フフフッ。でも、見ちゃうんでしょ?」
「ちょっと……迷ってる」
「……?」
「ご要望にお応えできないような、予算オーバーなモノが書かれていた場合……」
「あー……ウチも、どうしようかしらー?」
その3:
「わーい、クリスマスに先輩のウチに呼んでもらえるなんて、うれしいです! それに今日は、付き合って2ヶ月記念日ですねっ」
「あの10月25日から、もう2ヶ月か……」
「あっ! 私の『秘密の箱』、飾ってくれてる!」
「ああ。……これ以外はべつに普通だし、カワイイんだけどなー……」
「え? 先輩、なんて?」
「……いや? じゃその辺適当に座ってて。飲み物を、」
「あのっ! 先にプレゼント、お渡ししてもいいですか?」
「初っ端から? ……って、なに、コレ?」
「お手紙です! 私の『秘密の手紙』!」
「秘密。ってことは、」
「ぜーったいに、開けちゃダメ、ですよ?」
「やっぱりかー」
「あの箱の中のとは、違う秘密です!」
「あーうん。おっけー、大事に保管しとく……」
「これは! 肌身離さず、持っててください!」
「……えーと?」
「ちゃんと、ストラップ付き防水カバーもご用意しました! 水濡れ厳禁ですからね!」
「あーはい。うん、手紙だもんね?」
「これでいつでも私の秘密が気になって、手紙を開けちゃおっかな、って悶々と葛藤出来ますね!」
「ほんっと、なにを試されてるんだろーなー、俺……」
目が覚めれば仕度をして仕事に行き、終電で帰れば泥のように眠る、そんな日々を送っていたボクに『冬の足音』が聞こえたのは、もう真後ろに立たれたくらいの距離だったんだ。
ザッ。ザザッ──駅からの帰り道に横切った公園で、公園の砂の地面をスニーカーが削るような音がして、ボクはバッと振り返り、でもそこには誰もいなくて、そこで吹いて来た風が、思いのほか冷たくって──。
「は? ストーカー?」
そうじゃない。季節感はおろか曜日感覚すら失くしてたから、冬の足音に気付けなかったんだよ、ってハナシ。あれはきっと冬将軍じゃない、冬足軽の足音だったんじゃないかな?
「ハァ。冬足軽ってなんだよ、オマエの薄着の言い訳聞いてたのに、なんでそんな新キャラが出てくんだ……わかった、もういい。とにかく寝ろ」
冬足軽もきっと、寒そうなカッコしてたんじゃないかな。ほら、昔のコントみたいに「イッキシ!」なんて、そんなクシャミしてそうじゃない?
「あーうん、なんか気の毒だから、ダウンでも着せてやれ。夢ン中なら出来るだろ? っと、体温計……38度越えてるぞ? 風邪なんか引いてんじゃねぇよ、ったく!」
お題:『贈り物の中身』
「ママ、ただいまー。あれー? パパはー?」
「あー……うん。えっとね、アレなんだけど、」
「おフトンに、紙が貼ってある? ええと……『この中にミカちゃんへのプレゼントがあります』だって! わーい! ……えー? なんで、パパ……?」
「じゃーん! 今年もずーっといいコにしてたミカちゃんへのクリスマスプレゼントは、サンタパパでしたー! なーんちゃって……って、あれ?」
「あーあ、パパってば……ついに、ママにすてられちゃった? だからミカに、ひろってほしいの?」
「え? や、そーじゃなくって、えーと……ほら、まずサンタ姿のパパの可愛さにびっくりするとか、こんなプレゼントじゃやだー、とか……」
「うーん、しょうがないなぁ。じゃあパパは、これから、ミカのおサイフにしてあげる! たーくさんカキンさせてあげるねっ」
「ちょっ、まっ……ミカちゃんってば、そんなコトバ、どこで覚えてきたのっ?!」
◇◇◇
「ミカったら、夢中になっちゃって。これじゃあクリスマスパーティーって言うより、ゲームパーティーねー。
ほーら、パパ……シンくんも。そんなすみっこで体育座りなんかしてないで、ね? プレゼントのゲーム、ちゃんと喜んでくれてるんだから、こっちに来て一緒に、」
「……俺は。あのとき、スッゲー嬉しかったんだ」
「んん? あのとき、って……あ、」
「付き合ってすぐの、クリスマス。ミキが、『プレゼントはアナタの大好きな、わ・た・し』って、布団の中で、スタンバイしてくれてて……」
「っ、あーれーは! サンタコスなんてやっぱやめよっかな、って考え中だったのに、シンくんが早く帰って来ちゃったから、とっさに隠れただけで! ……って言うか、さっきのミカへのサプライズって、そんな理由だったの?!」
「……どーせ、俺なんか。ミカちゃんとミキの、サイフでしかないんだ……」
「あー、もうっ! クリスマスにサンタが、ジメジメすんな!」
ここは『君と紡ぐ物語』の中、つまり僕と君が主人公の、二人は幸せに暮らしましたとさ、ってベタなエンドロールを出しっ放しの、世間的にはありふれた話だったはずで。
僕があの日、彼という新しい登場人物を君に紹介してしまったことで、紡ぎ糸がよれ、物語に綻びが出来てしまったのだ。
そして君は、それを上手に隠しているつもりで、けれど表向きは、僕とのハッピーエンドを続けていて──ふーん、そんな二重構造の話だったなんてね、さて。これから……どうしようか?
ここにある綻びを指さして、それから? いや、それとももう少し、綻びに気づかないフリをしてみようか?
『霜降る朝』にランドセル背負いつつ見つけたシモバシラ、あれを踏むときのあの音がまさに『失われた響き』だよな、って思った。シモバシラ、都会ではもう滅多に見つけられないし、見つけたとして、踏んでいい場所じゃないことのほうが多いのかな?