「『そして、』それから!」
ああ、なんということだろう。二人が手に手を取って走り去る後ろ姿を目にするまで、私は私の罪に気がつかなかった。
私はいままで、どれだけ彼らを蔑ろにしてきたことだろう。事あるごとに彼らを使い、だが彼らに報いることなどはなく──その度に彼らは、歯を食いしばって、その仕打ちに耐えていたのだ。
「待ってくれ、お願いだから……」
哀願の声は彼らに届くことなく宙に消え。私は彼らに向かって伸ばしていた手を下ろし、それか……グフッ、下ろして、ゲフンッ、えっと、下ろしてー、ゆっくりと立ち上がる。
そし……ゴフッ、んーとえっと、えーゴホッ、ゴホン! ……そんでもって、もう片方の手に握りしめていたスマホに気づくと、その画面上に残っていた文字の羅列に目を落とした。
《ワタシたちがいなくても、アナタなら大丈夫》
「嘘だ、そんなの……私にはそんな語彙力ないんだってば! えー無理無理、無理だよぅ……」
メソメソと泣き始めた私の肩を、そんでもってがポンポン、とあやすように叩く。そし……ゲフゲフッ、ゲフン!
『tiny love』
♪ tiny love このちっぽけな恋を
かけがえのない、って思うのに
tiny love 誰も彼も神様も
ありふれている、って笑うんだ
tiny love わかってるよアタシにも
どうしようもない、ってことくらい
tiny love ちっぽけな恋なのに
どうしたらいいの、ってあの人は
悲しそうに笑うんだ
「お前んちに行きたい、とか言われたって無理無理、『おもてなし』とか考えなくっていいからさ、ってね、いやもうおもてなし以前の問題でね? 部屋狭いし勿論汚いし掃除したってたかがしれてるし、あースリッパないお皿もカップも揃ってるのないしその前に椅子&テーブルもしくはちゃぶ台&座布団もない、最悪それら買ってくるとしていったいいくらかかるんだろ? そもそもお金ないからねその時点で無理なモンは無理だしあとよく考えたら他人を自分ちに入れるってトコから無理なんだわ〜。ね〜やっばりさぁこのミッションクリアしないと彼とバッドエンドになっちゃうよね? でも頑張って部屋に呼んだとしてそっちのほうが即バッドエンドな気がするぅ……」
「……あーうん、なるほど? ……で、一応訊くんだがな、いま現在この部屋に招かれてる俺は、どういう扱い?」
「え? いやだって、アンタは他人じゃないし。招くとかそんな、お客サマ扱いする必要ないでしょ?」
「…………」
ったく、オマエは。部屋に呼べない男なんかと付き合うんじゃねえよ。俺だったら部屋にオマエがいるってだけで『おもてなし』完了なんだ、早くそれに気づけっての!
いくつもの焔を身の内に抱えて生きるのはもう嫌だ、そう言いながらお前はそれを消さない。『消えない焔』だって? ハッ、そりゃ消えないだろう、お前が日々コツコツと油を継ぎ足しているのだからなぁ。怒り、憎しみ、恨み、嫉妬……どの火種もお前が四六時中夢中になって囚われるほどの好物、ならば、よくよく油を絶やさないことだ。さすれば焔が消えることはなかろうよ。
『終わらない問い』
終わらない問いよ
お前とはもう随分と
長い付き合いになる
どんな天気の日だってお前は
私への問いかけををやめない
(どうしてそんなに愚図なんだ?)
(あんな言い方はなかったよな?)
(同じ失敗ばかり何度繰り返す?)
私に呆れてながらも
お前は私を見放さず
その声は
やまない
ああそうか
お前の声は
死の淵に於いてこそ
やむことはないのだ
(何も叶えられなかったな?)
(何者にもなれずに終わり?)
(こんなはずじゃなかった?)
──終わらない問いよ
お前は私の傍らに立ち続ける
ならば同じものを共に見よう
月や星や
空や雲や
花や鳥や
この世のそういう
美しいものたちを
時にはお互い
口をつぐんで