配送員A

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11/19/2022, 10:05:12 AM

たくさんの思い出たちが
口々に私に何か言う
その声がまるで二つか三つの幼児のような
か細い高い声なのだ
それがてんで勝手にばらばらに
一斉に私に訴えるのだから
とても聞き分けていられない
私は宥めようとするけれど
思い出たちは聞き分けない
ぴいぴい、ぴいぴい
雛鳥か何かのように
一生懸命に訴える
私は困り果てながらも
なんとか宥めようとする
分かった分かった
近ごろどうも忙しくて
暇がなかっただけなんだ
けして忘れちゃいないとも
嫌いになったわけでもないよ
あとで一緒に遊んでやるから
ちょっと大人しくしておいで
そう言ってやれば
おとなしく口を噤むのもあれば
ますます喚き立てるのもある
私は笑って頭を振ると
あとでね
そう言ってやりかけの仕事にまた戻る
思い出たちが私を呼ぶ
いとけない声を聞きながら
分かった分かった
あとでまた遊んでやるから
そのうちまた遊んでやるから
今はまだだめだよ
私は今に向き直る
そうして呟く
お前もあの群れに入ったら
私に構われたがるのかね?
‘今’は笑って答えなかった

11/18/2022, 2:09:19 AM

冬になったら
寒くなったら
あれをやろう
これをしよう
あれこれ考えるのは楽しいものだ
冬にしかできないこと
寒くなくてはできないこと
世の中にはいろいろあるからね
そうでなくても
冬になったら
寒くなったら
こうなるだろう
ああなるだろう
その前に準備をしなくちゃ
やらなきゃならないことのもろもろを
前以て考えておくことも大切だ
けどさ
見てごらんな
空がよく晴れているだろう
おかしな雲が浮かんでるだろう
散ってゆくさるすべりの木の葉っぱの
あの赤と黄色を見なよ
明るく乾いたこの風のなんというやわらかさ
お正月もクリスマスもいいけどさ
いろいろと片付けなきゃならないこともあるだろうさ
けどさ
この十一月の
祝日でもない一日の
秋だか冬だかわからないようなこの季節の
この一瞬を見逃すなよ

11/16/2022, 6:38:03 PM

星と星とは交わらない
真空を隔てて遠く佇み
あるかなしかの微かな光が
誰かに届けば、まだいいほうだ
誰にも出会わず
絶対的な静寂の中で
誰にも看取られずに燃え尽きていった星々が
今まで幾つあっただろう
宇宙は巨大な孤独の闇だ
その凍えるように寒い 真っ暗な中に
ひとしずくの水のように青く浮かんでいるのが
この地球という星なのだ
ねえ
離れ離れは寂しいかい
けどさ
離れられるのは
一度近づいたからだ
出会わないものは別れられない
苦しまなければ慰めはない
ひとしずくの水の表面に浮いている
ミクロの埃のような私たちだよ
近づいたり離れたり
絶え間なく動き回って
忙しなく動き回って
何を嘆くことがあるんだろう
また会えるとは言わないが
別れなんて、そんなものじゃないのかね
私たちはあの孤独な星々よりも
しあわせなんじゃないのかね
だって
この甘やかな痛みを
さようならを言う悲しみを
この先何度でも知るんだから