なにか伝えたかったり、吐き出したかったり、助けてほしかったり、それらを書くことは簡単だと思う。
でもそれを書いて送り出すのは自分の意思で、その意思が足りないからせっかく綴った言葉も『どこにも書けないこと』として1人だけの秘密になる。
きっとみんな心に溜め込んだ言葉に溺れそうになりながら生きている。
(どこにも書けないこと)
話す度に何度でも好きになってしまう。
触れれば体温が上がってしまう。
横顔を見るとき、愛おしさに目を細めてしまう。
綺麗な目をまっすぐ見つめて、滑らかで心地の好い声に瞼を閉じる。
隠す気もないから溢れる気持ち。
あなたが気付いていることに気付いているけれど、もう少しだけ逃げていたいんだ。
(溢れる気持ち)
「例えばさ、ここに花を植えたとしてさ」
「うん」
「芽を出して咲けたとして、でもそれって1年もせずに枯れちゃうわけじゃん」
「そうだね」
「わたしはそれが寂しいなぁって思うのよ」
「まぁ、全く同じ花はもう咲かないもんね」
「それでね、1000年経ってもその花が枯れずに咲いていて、君とも一緒にいられたら良いのになんて思って」
「んー、ずっとあなたといられるならそれも良いかも」
「だけど1000年先の今日になったらきっとまた同じことを言っちゃうよ」
「むしろあなたがそんなに私と一緒にいたいと思ってくれて嬉しいけどね」
「…そっか」
「そうだよ。…でも、もう暗くなるし、そろそろ帰ろっか」
「……うん」
「大丈夫だよ。1000年先は隣にいられなくても、明日はいられるから」
「…うん。また、明日」
「ん、また明日ね」
(1000年先も)
1000年先も、なんて、現実的じゃないよ。
代わりに明日を約束し続けて、結局は同じ願いだって気付かないまま正当化していよう。
あなたに届けたいことばがある。
あなたに届けたいうたがある。
だからわたしは綴る。
どうか、この愛があなたの幸のひとつでありますように。
そんな願いを込めて。
(あなたに届けたい)
今日は友人とよく歩いた街へ行こうと思い立った。
最初の分かれ道をあっちに曲がれば初めて2人で行ったカフェがある。ついでに行った100均はまだあるのかな。
反対に曲がれば2人でよく行っていたカラオケがすぐそこだ。その友人以外とカラオケに行くことはほとんどなかったけど、他の人とは行ったことがないカラオケだ。そういえばそれより先の道に行ったことはないな。今度行ってみよう。
まっすぐ行って踏み切りの向こうまで行けば、友人に誘われて限定のアイスを買ったコンビニの前を通る。あの1度しか使ったことがないけど、よく覚えている。
なんとなく、今日はまっすぐ行くことにした。
次の角で左に曲がって道なりに5分くらい歩いたら一緒に帰る日によく寄り道して話していた公園だ。他に人がいるところを見たことがないから、少し時間はかかるけどいつもあそこに行っていた。
この街には友人と一緒にいた記憶がたくさんある。久しぶりに会いたくなってしまった。
いや、会いたかったから面影を求めに来たのかも。
今日は忘れてしまった時間をひとつでも思い出せたら良い。
(街へ)