わたしは優しさが嫌いだ。
優しさに甘えられることが嫌いだ。
わたしはあなたに優しくありたくて意識して言葉に優しさを込めているのに、あなたはわたしの優しさを当たり前だとでも思っているみたい。優しくありたいわたしを優しくあれない悪い人にするあなたが嫌いだ。
誰かから与えられる優しさは、その人を気遣う心を麻痺させる毒なのかもしれない。
わたしは優しい人じゃなくて優しくありたい人だって、それだけ分かってほしかった。
(優しさ)
音や言葉に色とか風景を感じることが好き。
これは、青くて暗くてでもきらきらしていて、静かで、優しい言葉。
さらさらと雨が降っていて、濡れたアスファルトが街灯を反射しているとか。
湖が月明かりをきらきら乱反射させているとか。
空を見上げたら星が瞬いているとか。
一緒に出かけた日の別れ際にあなたの銀色のネックレスが煌めいたとか。
冷える夜に誰も見ていないところで霜柱が立ったとか。
そんな風景が浮かぶ綺麗な言葉。
(ミッドナイト)
ひとつ、ふたつ、みっつ、……いくつ飲んだだろう。
用量より少しでも多ければ過剰摂取。それはどこで聞いたんだっけ。
わたしにとってのこれは、どうしようもない不安をもっと大きい不安で覆って安心する行為。
たった20錠でも重力が半分になったみたいな感覚がして不安になる。
わたしはその不安感に安心してしまった。
めまいがする。
耳鳴りがする。
吐き気がする。
光がまぶしい。
薬のにおいだ。
きっと明日と明後日は体調を崩してしまうね。
薬のにおいはいつまで居座るか分からないし。
でも体が不調な間は心の不安を見なくて済むんだ。
(安心と不安)
自傷行為を推奨する意図はありません。
自分を傷つけたくなってしまう人も誰かを傷つけたくなってしまう人も、そのどちらでもない人も。
どうか明日は全ての人が幸せでありますように。
綺麗だなぁ、って思ったから写真を撮った。
古いレンガ道、川のみなも、枯葉の残る木、空、陽の光、橋、停められた自転車、退屈そうな猫。
今わたしの世界を彩っている全てを写したい。
諸行無常の美しさなんて知らない、知りたくもない。
美しいときは永遠であればいい。
移ろってしまうのなら、せめて写真に残したい。
それでも素人が古いスマホのカメラで撮るのではどれひとつとして美しさを保てない。
今日は逆光になってしまった。
でも陽の光を写したかったんだ。
反対側を向いたら、逆光にはならなくても、水面に映る景色が違ってしまうだろ。あの木が写せない、空の模様も、欠けたレンガも、猫の表情だって違ってしまう。
わたしが綺麗だと思ったのは、今ここであの瞬間の景色だ。ひとつでも欠けたらいけないし、ひとつでも余分なものはいらない。
ただそれだけの話。
(逆光)
こんな夢を見た。
大切な子がわたしの手を引いて、一本道を歩いている夢。
何も話さないで、ただただ歩く。あたたかくて心地が良かったから、この静かで綺麗な時間を邪魔したくなくてわたしも黙っていた。
途中で振り返ったあの子の表情だけはどうしても見えなかった。
いや、本当は見えていたと思うのだけれど。
いつもみたいに困ったように呆れたように笑っていた気もするし、悪戯っ子な表情をしていた気もする。それとも泣きそうな顔だったかもしれない。
覚えていたはずなのに、記憶がどんどん零れていってしまって、思い出せない。
手のひらに降ってきた大粒の雪がとけてしまったとか、捕まえた桜の花びらが風に飛ばされてしまったとか。たしか、そんなときにも今と似た気持ちになった。
なんとなく、窓の外を見た。
快晴でも曇りでもない、何の変哲もない晴れた空だ。
雪が降るにはもう遅いし桜が咲くにはまだ早い季節。
それでもあの喪失感を探しに散歩に行ってみようと思った。
(こんな夢を見た)