自分はみんなより劣るところばかりで、
何一つ良いところなんてないけど、
それを探すために今を生きている。
一生見つからないかもしれない。
何をしても越えられない壁しかないかもしれない。
でも、それでも、
明日は今日より自分を越えられるかもしれない。
もっと自分が好きになるかもしれない。
そんな自分をいつか誇らしく思えるように、
今日も、明日も、未来を駆ける。
■テーマ:誇らしさ
夜の海は綺麗だ。
海に映るビルも、
海に映るランタンも、
海に映る観覧車も、
全てが幻想的だ。
中でも海に映る月は素敵だ。
太陽とは違う優しい光。
水面に映るその彩りは美しい。
あのモネも知っていたのだろうか。
夜の海の美しさを。
あの紫式部も気づいていたのだろうか。
夜の海の恋しさを。
■テーマ:夜の海
「自転車に乗って、日本一周したい」
君が言った言葉だ。今も俺は忘れてない。
アウトドアが好きな君の言うことだ。
いつか叶えてあげたいって思ってた。
一緒に日本一周することが夢だった。
でも、俺の仕事が多忙過ぎたから休みが取れなかった。
やっと長期休暇を取ったあの日、
君は突然この世を去った。
交通事故だった。
君が一緒に旅に出ようとしていた自転車は原型を留めていなかった。
その日から数日間の記憶は曖昧で、楽しくなるはずの長期休暇は無に塗り替えられていた。
俺はある時、ふと君の言葉がよぎった。
「私は貴方に泣いて欲しくないんだよ?ずっと笑っていて欲しいな」
その言葉を思い出した瞬間、俺は決心した。
俺が君との夢を叶えようと。
そして、俺は旅に出た。
まだお墓に入ってない君の遺骨を少し持って、
君の自転車で唯一原型の留めたベルを持って、
俺は旅立った。
その道中、様々なことがあった。
詐欺的なことにもあいかけたけど、
ほとんどが楽しい思い出になった。
そして、旅を始めてから半年ほど経った今日、
旅は終わりを迎えようとした。
俺は海辺で朝日を見つめていた。
綺麗な朝日だ。
朝焼けの空。
無限に広がる海。
俺は生きている感じがした。
旅の途中、君のことを忘れたことはない。
だけど、確かに君はもういない、その実感がした。
きっとこれからも君を忘れないだろう。
そして、この旅も忘れない。
俺は自転車のベルを少し鳴らす。
もういない君に届くといいな。
「またな」
──大好きな君へ。
■テーマ:自転車に乗って
疲れた。
本当に疲れた。
何もしたくない。
なのに、勉強にしなければならない。
別に学びたくないのに。
どうせなら楽な仕事に就きたい。
なのに、そういう仕事に限って給料が安い。
きつい。
自分には無理だ。
自分は社会不適合者なんだ。
そんな言葉逃げだとはわかってる。
でも事実なんだからしょうがない。
だから今日は何も努力せずに寝てしまおう。
そうやって毎日を過ごしている。
そんなことは分かってる。
頭では分かっていても身体は動かない。
無理なもんは無理。
そんな日々を過ごしてもいいじゃないか。
みんないつかはくたばるんだから。
自分の心が病む前に、自分の心が壊れる前に、
明日を迎えるために、未来を見るために、
今日はぐでってして眠ろう。
■テーマ:心の健康
物心がついた時には僕は「天才」と呼ばれていた。
「若き天才ピアニスト」、それが僕の通り名だった。
その界隈では誰もが知っている小さなピアニスト、僕は同じ年代では金賞を譲らない無敵のピアニストだった。
僕はクラシックを愛していた。
四六時中クラシックを弾かされていた僕はそれが世界の全てだと思っていた。
ある年の夏だ。
僕が音楽に特化してる私立へ受験する年、小学生最後の夏のある日。
もうすぐ夏休みのあの日、僕は焦っていた。
ただでさえ委員会で放課後が遅くなっていたにも関わらず、クラスメイトの嫌な奴にノートを隠されて探すのに時間がかかっていた。
(……あぁ、どうしよう。母さんに怒られる……)
そう思いながら、教室中を探していた。
掃除ロッカーを動かした瞬間に、探していたノートが見つかる。
安堵してランドセルを背負おうとした瞬間、僕は立ち止まった。
──初めて聴く綺麗なピアノのメロディ。
弾けるような、そして柔らかな旋律。
僕は聴いた瞬間、胸を打たれた。
目を見開き、気づけば廊下を走っていた。
速く、もっと速く、あの音の近くへ。
僕は鼓動が高鳴った。
それは走っているからなのか、あのメロディへの胸のときめきなのか、分からなくなりながら。
あの音は音楽室から響いていた。
気づけば女の子が歌う声も混ざっていた。
練習していない歌声だが、美しい。
もっと磨けば誰にも負けない最強の美声になるだろう、子供ながらそう思った。
音楽室に入ると、女の子はピアノを弾きながら歌っていた。
楽しそうに、そして堂々としながら歌っていた。
時折揺れながら、彼女はピアノを弾き続ける。
僕は声をかけようとしたが、そのメロディが消えてしまうことが嫌だったので、その声を抑えた。
彼女が歌い終え、ピアノの演奏も終えると、僕は思わず拍手をした。
その瞬間、彼女はびくりとして僕の方を振り向いた。
「すごい……すごい!」
僕は思わずそう言って彼女に近づく。
「何なの、この曲!?誰の曲なの!?」
僕はグイグイとそう言うと、女の子は困ったような表情を浮かべる。
「……Tell Your World」
「え?てーるゆあ?」
「Tell Your World。初音ミクの曲」
「てーるゆあわーるど……はつねみく。はつねみくってすごい人なんだね!」
「人じゃないよ!機械だよ!」
彼女はそう言って微笑む。
機械?
「機械は歌わないよ?」
「機械というか……音声の入力?みたいな?」
「……わかんない」
「私もよくわかんない。でも、すごく綺麗な声なんだよ!」
僕はますます分からなくなった。そのためか、ずっと首を傾げた。
「……まぁいいや!それより、この楽譜、どこで買えるの?」
「楽譜……はわかんない。自分で勝手に弾いてるから」
「自分で、勝手に!?」
僕は驚きを隠せなかった。
「どうやって!?」
「何度も聴いた曲なら、なんでも弾けるよ!例えば……」
彼女はそう言って再びピアノを弾き始める。
今度はゆったりとした旋律が流れる。
「ゆうや〜けこやけぇの〜あかと〜ん〜ぼ〜♪」
彼女はそう言って歌い始めた。
「おわれ〜てみたのぉはぁいつのぉひぃか〜♪」
そして声と共にピアノも弾き終える。
「それは知っている!『赤とんぼ』だね」
「そうだよ!」
「すごいね!ピアノ習ってるの?」
「ううん。ここでずっと弾いてた」
「習ってないの!?」
「うん、うちはあんまりお金ないし!」
僕はますます彼女に興味が湧いた。
「僕もね、ピアノ弾けるんだ!だからね、友達になろ!」
「うん!いいよ!!」
彼女はとびきりの笑顔で返事をする。
僕は嬉しくて彼女と握手を交わす。
その日の夜は両親にこっぴどく怒られたことは言うまでもない。
あれから10年が経った。
僕は明日行われるコンサート会場の支度に追われていた。
そのステージに立っている。
「緊張しているのかい?若き天才ピアニスト君」
ふと振り返ると、女性が1人ニヤニヤしながら立っていた。
「そんなこと言うなよ、ボカロP」
「んな!?裏の顔を言うなよ!」
彼女はそう言って頬を膨らます。僕は微笑む。
「君がピアニストになっていればなぁ」
「しょうがないよ。うちにはお金がなかったし!まぁそもそも楽譜読めないしね!」
「でもボカロ曲ではバズったじゃないか」
「まぁねー!やっぱりミクちゃんの歌声はいいね〜!」
そう言いながら彼女は腕を伸ばす。
「……明日、楽しみだね。初めての単独コンサート」
「ありがとう。君にそう言ってもらえると嬉しいよ」
僕は彼女に近づく。
「……本当は君と演奏したかった」
「え〜本当?……じゃあ、もし私が自分で作った曲を自分の歌声で歌って売れたら、一緒にやろうか!」
「そうだね!そうしよう!」
「わお!随分やる気だね!」
「そりゃあそうだよ。だって、君の奏でる音楽とコラボできるなんて、これほど光栄なものはないよ」
僕がそう言うと、彼女は少し頬を赤らめる。
「て、天才ピアニスト君に言われるとなんか照れるねぇ。お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃない、事実だよ」
「ますます照れるねぇ。売れるかも分からないのに」
「売れるよ。だって、君の音楽は最強だから」
僕はそう言うと、彼女は笑う。
「君に言われるとやる気が出てくるわ!私、頑張ってみるね!」
彼女はそう言ってガッツポーズをした。
僕は笑いながら、彼女を見つめた。
──もっと君との世界を知れますように。
■テーマ:君の奏でる音楽