「自転車に乗って、日本一周したい」
君が言った言葉だ。今も俺は忘れてない。
アウトドアが好きな君の言うことだ。
いつか叶えてあげたいって思ってた。
一緒に日本一周することが夢だった。
でも、俺の仕事が多忙過ぎたから休みが取れなかった。
やっと長期休暇を取ったあの日、
君は突然この世を去った。
交通事故だった。
君が一緒に旅に出ようとしていた自転車は原型を留めていなかった。
その日から数日間の記憶は曖昧で、楽しくなるはずの長期休暇は無に塗り替えられていた。
俺はある時、ふと君の言葉がよぎった。
「私は貴方に泣いて欲しくないんだよ?ずっと笑っていて欲しいな」
その言葉を思い出した瞬間、俺は決心した。
俺が君との夢を叶えようと。
そして、俺は旅に出た。
まだお墓に入ってない君の遺骨を少し持って、
君の自転車で唯一原型の留めたベルを持って、
俺は旅立った。
その道中、様々なことがあった。
詐欺的なことにもあいかけたけど、
ほとんどが楽しい思い出になった。
そして、旅を始めてから半年ほど経った今日、
旅は終わりを迎えようとした。
俺は海辺で朝日を見つめていた。
綺麗な朝日だ。
朝焼けの空。
無限に広がる海。
俺は生きている感じがした。
旅の途中、君のことを忘れたことはない。
だけど、確かに君はもういない、その実感がした。
きっとこれからも君を忘れないだろう。
そして、この旅も忘れない。
俺は自転車のベルを少し鳴らす。
もういない君に届くといいな。
「またな」
──大好きな君へ。
■テーマ:自転車に乗って
8/14/2023, 10:37:16 AM