「希望なんてさ、別に一つじゃなくても二つでも三つでも、好きなだけ持ったらいいと思うんだよね」
そう言ってあいつは笑った。
俺は呆れて、思わず、
「相変わらず……は欲張りだな」
苦笑混じりに言えば、続けて、
「欲張りだっていいじゃないか! だってほら、見てよ! 夜空だって星が多い方がきれいでしょ」
あいつは変わらず笑みを浮かべたままどこかの物語のようなセリフを吐いて空を見上げた。その言葉につられて俺も見上げた空は確かに星が沢山輝いていて、キレイで――。
――暫くしてあいつが死んだ。
…………暗い夜道を一人ぶらぶらと歩く。
目指すべき北極星もなく、ただ冷たいアスファルトに視線を落として。
大切な友人が死んだからといって、『世界が一変した』なんて大袈裟な事は言わないが、それでも世界は随分暗く色褪せた気がする。
毎日がひどく冷たく空虚で退屈で、静かなのにとてもうるさい。
――だってほら、見てよ! 夜空だって星が多い方がきれいでしょ
一陣の風が吹き抜けた時、ふとあいつの声が聞こえた気がして思わず空を見上げた。
頭上にはあの時と同じ無数の星の瞬く空が広がり、星一つ一つの光は小さくてもそれはとても綺麗で、
――死んだ魂は星になるというけど……
柄にもなくそんなロマンチシズムなことを考えて、でも滲む視界の先に広がる星々のどれか一つがあいつだとしたら……。
ただ下を俯いているよりも、たまには顔を上げて探してみるのもいいかもしれないな、と、涙が溢れた。
欲望、ありすぎても良くなく、無さすぎても、味気ない。
誰も知らない、誰も私のことを知らない場所へ行きたいと思う。
知らない街並みの中で、知らない景色を見て、今までの私を知らない人ばかりのところで、新しい人物像を作って、一からやり直したい。
きっとそこで見る太陽の光はどこまでもキラキラしていて、空も、世界も広く澄んで輝いているんじゃないかと。
財布だけを持って、バスと電車を乗り継いで、どこか遠く、遠く……。
そう夢見て、現実は外に出るのも億劫で、人とすれ違うと思うだけで憂鬱で、ただ玄関の一歩先へ進むのすら、重たくて、遠くて、ただただ『見たこともない理想的な街』へと、一人思いを馳せるのみ。
時間が少しでもあれば気がつくとスマホを触っている。そして各種サービスにアクセスしては、個人の趣味の呟きや投稿された創作作品を眺めている。
眺めて『いいね』して『スキ』をして、現実的には無能な自分もこんな素敵な物を作れたらなぁと夢想する。
否、私もこうして実際に文章を、時折絵を描いてと楽しんでいるわけで、できた物はこっそりひっそり投稿サイトにあげたり、ホームページに載せたりしている。そうしていつか誰かの目に止まり、いま私が目の前で凄い凄いと思っている人達みたいに、誰かに、できれば沢山の人に「凄い」「スキ」なんて思われる日が来るのかなとか考えて、ホームページにわくわくしながらアクセスして確認、『訪問者0』(笑)
もちろんツイッターに各種イラスト投稿サイトの「いいね」も夢のまた夢で、そんな悲しい現実を、「でもいつかは上達できるよね」なんて言い訳して努力不足から目を逸らし、次に上手い人達の作品を「気分転換だ! 勉強だ!」なんて言いながらも、それすらすっかり忘れて素敵作品に浸って堪能する。
君はいま、
笑っていますか?
泣いていますか?
怒って、いや、それとも感情が凍りついていますか?
私には分かりません。
分かりませんが、ただ元気だったらいいなとは思います。