たなか。

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8/10/2023, 3:17:44 AM

【上手くいかなくたっていい】

 何も上手くいかなくたっていい。そう決めた頃にはもう恐れるものなんてなかった。あの人に見えすぎる目をもらった時から。昔から、我慢が得意だった。だから、気づかなくてもよかった。それでも、当たり前は当たり前ではなかったと気づかされてしまった。でも、それが悪いことだとは思えなかった。あの人は私の見えない世界を広げてくれたんだ。周りに恵まれたくせに蓋を開けてみれば幸せとは思えないことに気づかせてくれた。肯定をしてくれる周りに否定しかしてくれない小さな世界。
「こうすればいいんじゃないか?」
 意思のすり合わせ。違う価値観を共有しあって世界の見方を増やしてくれるやり方。純粋で何を言われても聞き入れてしまう私に目をくれた。自分のことに関してはポンコツなのに人のことに対して敏感な私を守るための生き方。上手くいかなくたっていい。そう思わせてくれるやり方。
「私はお前さんに幸せになってほしいんだよ。」
「私も幸せになりたい、何も知らなきゃよかったかなって思う時があるの。」
 知ってしまったが故の価値観のすれ違い。あー、この人たちは私の本質なんて見てはくれないという失望。話を聞いてくれないのなら話す必要もないじゃないか。いつしか、呆れて諦めるようになった。
「お前さんは期待しすぎてしまったんだな、あいつらに期待しても無駄だよ。」
「だって、こんな私にだって出来たんだよ? あの人にだって出来る可能性があるの。」
 押し付けるには重すぎた。良すぎる目を使うには純粋でお人好しすぎた。今まで、私を見てくれているフリをしているやつは私のことなんて見てはいなかった。自分の過去の過ちに気づいてしまった時には。
「クズだな。」
 そんな言葉しか出てこない。分かっていた、分かり切っていた。どこかで見ないフリをしているだけで気づいているはずだったんだ。自分の痛みばかりに見ないフリをして他人の痛みに敏感になることに慣れていた、慣れ過ぎていたんだ。若いのに。あの人はきっとそんな私が見ていられてなかったんだろう、そんな風に思う。だから、賢くするために世界を見せてよく見えすぎてしまう目をくれたんだ。
「ありがとう。」
「何がだ? いや、こちらこそありがとう。」
 この関係性に終わりが来るならばきっとそれはどちらかが壊れてしまった時なんだと思う。

8/9/2023, 2:46:24 AM

【最初から決まってた】【蝶よ花よ】

 分かっていたことじゃないか。全て、最初から決まってた。今更なんだ。さぁ、手で雑に涙を拭って顔を上げるんだ。手に触れる布が湿って冷たい。私、なんで泣いてんだっけ。数時間前の出来事に意識を向けて思い出す。あー、振られたのか。また、振られた理由は同じ。嘲笑うなら嘲笑えばいい。蝶よ花よ、私の何がいけなかったというのか。いや、分かり切っていることか。人は人じゃないと恋愛をしたくはないらしい。最初の方は受け入れるよ、なんて言葉で私を安心させるくせに少し経ったくらいのところで毎度私を見限るんだ。
「やっぱり俺らは同じ種族の人と恋愛をするべきだと思うんだ。」
 そんな言葉。最初から諦めていたことではある。それでも、まだ希望があると思ってしまったんだ。呑み込めない言葉を無理に飲み込めば飲み込むほど喉が詰まる、息が苦しくなるんだ。分かっていたことでも分かりたくはない。
「同じ種族の恋愛がつまらなそうって言ってたのはそっちなのにね。」
 誰に言うでもなく独りの葛藤のため吐き捨てる。何度呪ったことか。いくら変わりたいと願ったってもらった身体を捨てるのは怖かった。誰か少しだけ受け入れてくれる人がいればいいのに。

8/1/2023, 3:46:20 AM

【嵐が来ようとも】【澄んだ瞳】【だから、一人でいたい。】

嵐が来ようとも君は穢れないって誰かが言ってた。嵐の日はどんな澄んだ瞳でも曇って気をおかしくしてしまうんだって。
「なんで、そんなに曇らないの?」
「あなたも曇ってない。同じでしょ?」
僕が曇っていたってきっと君は気づけない。嵐の日に小屋に君と二人きり。君に噛み付いてしまいそうでおかしくなりそうだ。だから、一人でいたい。曇る、曇らない。晴れる、晴れない。嵐の日にはいつだってうたを歌う。君が雲らないように、と。願いを込めて。名付けるならば鎮魂歌。

7/28/2023, 6:06:55 PM

【お祭り】

お祭りの夜は22時以降には外に出ないこと、って。神様が来ちゃうからって出して貰えないって。去年、お祭りの夜に22時以降外に出ちゃった隣の家の子はさらわれちゃったんだ。でもあの時あの子は探しに行くって言ってた。じゃあ、私も探しに行かなきゃって、何故か思ってしまったの。外へ出て一分。
「今年は君か。すぐにお友だちのところに連れて行ってあげる。」
神様なんかじゃなかった。この街から助け出してくれる不思議ななにかだった。

7/28/2023, 12:07:28 AM

【神様が舞い降りてきて、こう言った。】

ある日、光を見た。自然と目が釘付けになるような、地上に刺す一筋の光。ある日、神様が舞い降りてきて、こう言った。
「君らはもうじき死ぬんだ。防ぐためには、生贄を用意しろ。」
なんて、馬鹿げた話。それだけ告げてどこかへ行ってしまわれた神様にみんなてんやわんや。生贄は何人? どこに向かわせる? そんな具合。きっとこれのことなんだ。これが死ぬ羽目になる。壊れていくんだ、人の心が。神様はゲームがしたかったんだ。退屈だ、と。誰か乾いた自分の心を癒してくれるのか、と。

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