たなか。

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7/2/2023, 10:40:24 PM

【日差し】

暑さのせいで回る目に日差しがキラキラしてた。今年の夏は去年よりも暑くなるらしい。お生憎様の雨、お天気にはなかなかなってくれない。私もこんな天気飽きてしまう。
「今日は雨のち曇り、傘が必要かもだってよ。」
「げ、傘なんて持ってないんだけど。」
天気予報とか星座占い見ないからだよ、って談笑。見た方がいいのは分かっている。けれど、どうしても見る時間がないんだ。日差しでバテてまともに日中歩こうとも思えない。何もしていないのに疲れてしまうからさすがに夏バテ。水分とった? って少し注意をされる。
「飲み物持ってないからさ。」
「じゃあ、これ飲みかけだけどまだ新しい方だから。」
って、思わせぶり。やめてよ、そんな。この関係に名前をつけるとしたら兄妹と同じ感じ。同い年で片方が面倒見がいい。余裕を感じる暇もないのに。今年の夏はいつもよりもずっと心臓の音がうるさい気がする。

7/1/2023, 5:08:44 PM

【窓越しに見えるのは】

窓越しに見えるのは狐の笑顔だった。俺は自分の目を精一杯凝らして窓の中を凝視する。本来ならば人は知りえないはずの秘密のポーズ。使う際には気をつけろ、と。何度も念を押された。深淵を見る時に深淵がこちらを見ているように。また、俺が人ならざるものを見ている時人ならざるものも俺に見られていることに気づいてしまうのだ。
「君、僕の事見たでしょ。」
ほら、見られてる。

7/1/2023, 4:51:34 AM

【赤い糸】

後ろの方から声がして気にしちゃいけない。そんなのは分かっていたのに振り向いたらそこに化け物がいた。指には赤い糸。繋がってる先はとても可憐な少女。相変わらず綺麗だ、なんて。上から目線。
「何調べてんの?」
肩をぽんと軽めに叩いて隣に立つ。この距離感でいいのだろうか。
「わ、びっくりした。これ、駅前のスイーツだよ。」
キラキラしたものが似合う可憐な女の子。そんなものとは縁遠い人生を送ってきたはずなのに。
「行く?」
驚いた。こんな簡単に誘ってくるんだ。何も思わずに行くなんてことは無理だと思う。それでも、違う誰かが行くことになるのも嫌だった。
「行く。」
「フッ軽じゃん。いいね、そういうの。」
ほら、まただ。笑いかける度に膨れ上がった化け物が赤い糸を大切にしながら幸せそうな顔をする。早くこの糸を切らなきゃ。私に繋ぎ止めていい人じゃない。運命の赤い糸なんて嘘だ。
「 」
え、なんて? 聞こえなかったのなら気にする必要も無いのだろうか。赤い糸はきっと切るんだから。

6/29/2023, 5:15:58 PM

【入道雲】

流れていた、入道雲が。その頃僕は寝転がりながら本を読んでいた。いいじゃないか、ここの芝は人工のやつで綺麗なんだから。
「また、そんなところで寝転んで。何読んでんの?」
「......綺麗だし。推理小説。」
本を閉じて声をかけてきた本人の目を見つめる。
「何。」
「何も。ただ、なんか、いつ死ぬんかなって。」
「唐突じゃん。縁起でもないこと言うなって言う前に何があったんだよ。」
一瞬だけ、考えた素振りを見せてから何も無かったようなケロッとした声色で答える。
「何も無いから。なんもないからだよ。」
そのまま見つめていたら少しだけ困ったような顔をした。苦笑いをしてから一言。
「早く殺してやればよかった?」
その言葉に反応して笑顔になった。ずっと待ってた。
「殺してくれればよかった。」

6/28/2023, 11:38:58 AM

【ここではないどこか】【夏】

ここではないどこかで君にまた会いたい。冷静になって君に会いたい。今度は逃げないように、今度はちゃんと話せるように。あの日の続きをするために。
「勝ーってうーれしいはーないちもーんめっ」
「負けーて悔しーはーないちもーんめっ」
あの子が欲しい、あの子じゃわからん。この子が欲しい、この子じゃわからん。
「相談しましょ、そうしましょう。」
君と私でジャンケンを、負けた方から引き抜くと。大人数が好きでは無いから二人だけ。二人遊びの達人ね。大人になれば遊びも変わる。遊びの時間が減っては私をすり減らす。少しだけ戻りたいと思ったんだ。負けず嫌いの劣等生。夏になるならかき氷。小銭を握りしめて買ったにも関わらず二人とも途中で飽きて最終的には嫌な顔をして完食。まぁ、昔のこと。
『ちょっと、会いたい。』
『ちょっとって何なの笑』
少し前の電子上での最後の会話。約束なんて決めずに今日ここまで来てしまった。ここなら会えるかも、なんて思ってない。ただ、無性に思い出してしまっただけなんだ。公園のあるブランコ。人の消えていく時間にブランコに座って空を見る。今じゃ私はおかしな人。
「勝ーって嬉しい花一匁」
こんな歌だったな。二人遊びの達人だからただのジャンケンとなんら変わらない。少し変わるのはただのジャンケンはつまらないからと形を変えただけ。
「負け面悔しい泣き虫お嬢。」
ふと前を見上げれば歳をとった昔の顔。雰囲気変わんないんじゃん。てか
「誰が泣き虫だ。」
「普通に話してくれるんだ、泣き虫お嬢。」
この距離感も昔から変わらない。少しだけからかわれて噛み付いてまるで犬と飼い主ね。癪に障るから絶対そんなことはないけれど。君はなんで高校が別れるってなって会えるの最後かもね、なんて笑いあった中学三年生の日に口付けをしたんだろう。その日からまともに顔なんて見れなかったのに都合よく美化された思い出には縋りたくなる。
「馬鹿なこと言ってるんじゃないよ。会いたいって言ったくせに。」
「弱みに漬け込むなんて最低だわ......」
声色を変えて無駄に女性らしくなる。本当に君は変わってないんだ。笑ってしまう。
「ちゅーしたの怒ってる?」
「怒ってたらいちいち昔思い出してこんなとこ来ないけどね。」
負けず嫌いの劣等生、忘れられない思い出に敏感。負けたみたいで悔しいじゃんか。こちらに近づいてくる君にふと立ち上がる私。目の前まで来た少し背の高くなった君に口付けを。
「驚いた?」
「相変わらず負けず嫌いじゃん。変わってないね。」
「君には言われたくないな。」
勝ち逃げされるわけにはいかない。負け面悔しい泣き虫お嬢に勝った気でいたペラペラ王子。王子は隙を掴んで私にもう一度キスをした。
「もう勘違いじゃ済まされないね。」

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