【赤い糸】
何かに引っ張られたような気がした
きっとそれは赤い糸
振り向くとガラス越しに君と目があった
君は口の端を思いきり上げてとびきりの笑顔を見せた
その瞬間僕は恋におちた
赤茶色の毛
真っ黒な目
ぴんと立った耳
くるりと丸まった尻尾
全てが愛おしい
これから君との生活を考えると心が踊り出しそうだ
これからいろんな所に行こう
リードも買わないとね
僕と君を繋ぐ赤い糸
【入道雲】
真っ青な空
むくむくと勢いの良い曲線で描かれた入道雲
青と白のコントラストは美しいと思った
どことなく現実感がない気がして
いつも偽物なのではないかと暑さの中ぼんやりと思う
美しいと思うのは、気持ち次第なのだろう
今日は気持ちが沈んでない気がする
多少気だるいのは暑さのせいだろう
今日は薬を飲まずに寝てみよう
【夏】
心身の辛さを人に打ち明けたら
梅雨は気分が落ち込みやすきからね、と言われた
悪気はないのだろうが、軽い返しにモヤモヤした
では、夏になれば気か晴れるというのか?
心身が晴れやかになるというのか?
わかってる、これはただの八つ当たりだ…
もう疲れた
思うように動かせない体
思うことも儘ならない頭
いつまで続くのか
夏がきて、秋がきて、一年がたっても変わらない
もう疲れた
【ここではないどこか】
魅惑的な言葉だ
現状をガラリと変えくれそうな魔法の言葉
行きたくない?
誰かがささやく
ここは辛いだろ?
君が望めばどこへでも行けるよ
私はこたえる
別にいいよ、行きたくない
此処は変わらないんだよ
ここではないどこかへ行ったとしても
そこが新たな此処になるだけだから
【君と最後に会った日】
別れの挨拶は簡潔だった
君はまさか挨拶されるとは思ってなかったようで
少し驚いたあとに、にこりと笑った
そうだろう、私も少し驚いて、口の端がつり上がった
別れを惜しんでいる訳ではない
二度と会いたくはない存在
一刻も早く消えてほしい存在
世界中の不幸を味わってほしい存在
願わくば、君が最期を迎えるその時に、
世界の誰からも思われることがないように
ああ、胸がいっぱいで声がでない
どす黒い感情が沸き上がり、一度口を開けば止まらなくなりそうだ
だから必死に口を引き締める
だから必死に笑顔を作る
この場から逃げたしたい気持ちを押さえつけ
ぎこちなくだが笑顔をつくった
君は去り
私は残る
君が去っても私の体はもとには戻らない
いままで重くのし掛かっていた君と言う存在が急に消え
その事に不安さえ感じている
私をあんな目にあわせておいて、のうのうとここを去るなんて
許せなかった
償わせたかった
でも、そんなことは出きるはずもなく
私が最後にしたことは別れの挨拶をすること
君はなにも知らないだろう
私がこんな思いを抱えて別れの挨拶をしたこと
私がこれからもこの壊れた体と付き合っていくことを
だから、せめて、別れの挨拶を
ぎこちない笑みだが君に送ろう
私はこれから幸せになるのだと
だから笑って君を送り出すのだと
それは、小さな私の復讐