寮の前には、ドッヂボールができるくらいの芝生が一面に植えてあるんだけど、早朝の決まった時間に自動でスプリンクラーが作動する。
そういう光景にもアメリカだなぁって感じるんだけど、記憶が曖昧になっていく中で、私がそこにいたっていう証にも感じるんだよね。
夜通し話でもしてたんだと思うけど、もう夜が明けて、スプリンクラーが水を撒き出して、「行こう!」って手を引っ張られたんだったかなぁ、サカイと私は手を繋いで水しぶきを浴びながら走り回って。
たくさんたくさん笑ったね。
カラシ色に大きな水玉模様のパジャマもサラサラの髪もびしょびしょになったね。
心から楽しくて幸せだったサカイとの2人だけの時間。
この光景は一生忘れない。忘れられない。
あんなに幸せに笑えたことなかったよ。
サカイも同じように思ってくれてたらいいな。
サカイの髪はサラサラで、ツヤツヤで、クセのある私としては羨ましい限りなんだけど、なんでそうなったのか、「髪を切ってほしい」って頼まれて…イヤ、人の髪なんか切ったことないんですが。寮の部屋の前の芝生の上にイスを置いて、すごくすごく時間がかかったけど、なんとか上手いこと形良く切れてミッションコンプリート。普通のハサミでサラツヤの髪を切るなんてプロでも難しいわ。
サカイは野球部だったから、もともとは坊主だったらしいんだけど、私と会ったときはもう当時流行ってたセンター分けだったね。
散髪料貰うべきだったかなぁ。
今となっては実際に見たのか、話を聞いてその光景を想像しただけなのか覚えてないんだけど、ケンタがまっ裸のアツトを買い物カートに乗せて、2人で爆笑しながら寮の私たちの棟の周りを疾走するっていう、ホントあの2人はしょっちゅうバカやってたね。私にはチャラ過ぎてなかなか近寄り難い2人だったんだけど…
でも実はね、2人は私を否定しない優しい子たちでね、ケンタが同郷だったせいか気にかけてくれて、誰も見てないときに声かけてくれてたんだよ。サカイだけじゃなかったんだよ。
一度、ドアを開けたまま昼間にうとうと眠ってしまった事があって、ケンタが「ドア開けっ放しでそんな無防備に寝てたら襲われちゃうよ」って起こしてくれた。
いつもふざけてるのに、私に優しく笑いかけてくれたんだよ。その時に、この人全然チャラくないじゃんって分かった。
アツトとケンタは同室だったんだけど、部屋に行ったときチェストにアツトの下半身がしっかり写ってる裸のポラロイド写真が貼ってあって…さすがにそれは衝撃的だったなぁ。
私のこと事前に何が話してたのかなぁ。サカイの部屋に行くと、地元の友達と国際電話の真っ最中で。普通そこで私を電話口に出す??
モリオくんはロッテリアでバイトしてたんだけど、私もロッテリアでバイト経験があって共有出来ることってそれしかなかったんだけど。
ほんのちょっとのやりとりだったけど、サカイの親友は冷やかしとか、そんな話し方しない人で優しい子なんだってのはわかったよ。
アメリカと言えばハンバーガーなんだけど、学校の正門ゲートの向かいにある小さい屋台みたいなハンバーガースダンドがあって、美味しいってみんなで食べに行ったよね。
おじさんがさ、いかりや長介みたいな特徴ある唇でさ、顔もそんな面持ちで、誰が付けたのか『オヤジバーガー』って勝手に呼びはじめて。
オヤジのバーガー、美味しかったね。
本当のお店の名前ってなんだったんだろうね。
何度も行ったわけじゃないけど、私たちには合言葉みたいに『オヤジバーガー』は絶対に欠かせない思い出なんだよね。