本気の恋
あのときは、本気だと思ってた。
でも別れて五年経った今は違う。
恋ってなんだろう?
何を恋だと履き違えていたんだろう?
依存して、この縁を逃せば道はないとまで思い詰めて尽くしていた私は何を求めていたんだろうか?
恋とは無縁となった今なら恋なんて絶対しない。
本気の恋……だと私が思い込んでいたものは、私に重たい枷を付けただけだったのだから。
カレンダー
来年のカレンダーをまだ買っていない。
いつも捲り忘れて、ヘルパーさんに声を掛けられてやっと気づくくらいだし買わなくても困らない。
でも、今回は買いたいと思う。
ブロック型の万年カレンダーを机に乗せたい。
この目標があれば、机を片付けられそうだと思うから。
いつでも見渡せるスペースに置こうとすれば、上にどかどか物を置いた机では為せない。
スッキリと物が少ない机になったときに、今年最後の買い物にする。
ブロックなら捲り忘れても困らない。
その日その時間を実感したいとき、ころんと向きを変える。
夜、書く瞑想をするときにでもいいのだ。
そんな生活がしたい。
喪失感
祖母の横たわる棺が燃えたあと、小さな骨と灰だけが視界に映った。
葬儀スタッフが「こちらは喉仏様でございます」「こちらはお膝の骨でございます」と淡々と説明して拾っていく中、こんな事態でさえなければ鑑定士としての彼の手腕を褒め称えたいとすら思った。
生前、祖母は「般若心経はね、死んだらみーんな空っぽになってしまうって言ってるんだよ」と話していた。
色即是空だとか、御念仏を唱えさえすれば阿弥陀様に救って頂けるのだとか、祖母の言っていたそんなことを骨の移動を見ながら考えていた。
祖母は、空っぽになってしまったのだ。
ここに骨はあるけれど、極楽浄土だかどこかに渡ってしまって、もうどこにもいないのだ。
「それでは喪主様、最後に頭の骨を入れて頂けますか」
灰の中から拾い集めた、綺麗な薄い骨の蓋が納められるのを見ようとしたその瞬間、無粋にも「では御箸を回収させて頂きまーす」とスタッフが横切った。
がっかりしたような、でも空っぽなのだから瞬間を見逃したところで意味はないのだと自分を慰めながら、小さくなった祖母の入る白い箱をそっと撫でた。
世界に一つだけ
世界に一つだけのもの、と聞くといくらでもあるように思う。
いくらでもというのは言葉のあやではない。
どれもが、誰もが、世界に一つだけの存在だ。
同種のものが多数存在するような、例えば石ころやメーカー製造の同じ製品だって、どれ一つとっても全く同じものではないはずだ。
それでも世界に一つしかないものを敢えて選ぶとなると、なんだろう。
本当に、たった一つしかないもの。
主観、とかどうかな。
一人にしか分からない感性によって紡がれた、《世界に一つだけ》というお題の文。
胸の鼓動
胸がどきどき鳴った。
昔遊んでもらったきりの親戚と出会った今日。
思い出が、世界が心に蘇ってくる。
モンキチョウを追いかけた思い出。
鹿を愛でた思い出。
どれも懐かしく、でも鮮明な記憶。
あのとき遊んでくれたお姉さんが、今このアプリで同じお題で書いてくれている。
楽しい。嬉しい。
不幸という日に出会う、新しい記憶。
ありがとう、胸の鼓動よ。
ありがとう、心踊る出会いよ。