喪失感
祖母の横たわる棺が燃えたあと、小さな骨と灰だけが視界に映った。
葬儀スタッフが「こちらは喉仏様でございます」「こちらはお膝の骨でございます」と淡々と説明して拾っていく中、こんな事態でさえなければ鑑定士としての彼の手腕を褒め称えたいとすら思った。
生前、祖母は「般若心経はね、死んだらみーんな空っぽになってしまうって言ってるんだよ」と話していた。
色即是空だとか、御念仏を唱えさえすれば阿弥陀様に救って頂けるのだとか、祖母の言っていたそんなことを骨の移動を見ながら考えていた。
祖母は、空っぽになってしまったのだ。
ここに骨はあるけれど、極楽浄土だかどこかに渡ってしまって、もうどこにもいないのだ。
「それでは喪主様、最後に頭の骨を入れて頂けますか」
灰の中から拾い集めた、綺麗な薄い骨の蓋が納められるのを見ようとしたその瞬間、無粋にも「では御箸を回収させて頂きまーす」とスタッフが横切った。
がっかりしたような、でも空っぽなのだから瞬間を見逃したところで意味はないのだと自分を慰めながら、小さくなった祖母の入る白い箱をそっと撫でた。
9/10/2023, 10:26:45 AM