理由も無く闇に抗って、意味も無く争って、ただ血を流して傷ついては、虚しさで心は蝕まれていた。
自分の事を護る事にさえ、価値を感じ無くなった僕は、ただ目の前の闇を切り裂く事しか出来ない。
死ぬ気力さえ無いのに、生きる気力も無くてただ、空っぽな廃人魔法使いになった。
いつしか光が煩くなり、ただただ闇に飲み込まれて、その闇を憎んで、遂には自分が闇になって。
幾ら戦っても敵は消えない、何も得られない。
むしろ、増えるばかりで、失うばかりだった。
恐怖と憎悪に虚無感さえ入り交じった滅茶苦茶な感情はやがて、僕と心を引き離した。
仮初の力を手に入れ、禁断の魔法を当たり前のように使い、闇を征服した。
闇の全てを手に入れた僕は、光が欲しくなった。
そして光を征服した。
自分の欲では無かった、自分が征服した闇の欲望だったのだろうか、その欲望は止まらなかった。
何かを手に入れたら、今度は別の物が欲しくなった。
いつの間にか世界を征服して、闇に染め上げていた。
人々は笑顔を無くした。草木花は彩りを無くした。世界ら輝きを無くした。
僕が美しいと、手に取った物は色を無くして壊れていった。というより壊してしまったのだろうか。
君もそんな一人だった。
人を美しいと、愛しさ故にこの手に入れたいと思ったのは、君が始めてだっただろう。
だが、大事にするよりもずっと壊すのは容易かった。
僕はそこでやっと、自分のした事に気がついた。
恐ろしかった。
僕の心は、恐怖と憎悪を抱いて再び戻って来た。
今度は自分への恐怖と憎悪だった。
その瞬間、心を失って得たものは、音を立てるように崩れて、僕の手から離れていった。
己への恐怖と憎悪にどうする事も出来ず、闇の中を得体の知れない何かから逃げ惑う日々。
そんな中、君はまた現れた。
僕によって傷ついた心のまま、僕を助けた。
その日から君は僕の、【心の灯火】になった。
あれだけ拒み、憎み、恐れた光も闇も怖くなかった。
真っ暗な未知を今は、君という名の灯火と共に行く。
荒れた世界を必死に駆け回り、闇を抱きしめて光を抱きしめて、そっと解き放った。
僕が最後の力を使い果たした時、
人々は笑っていた。
草木花は彩っていた。
世界は美しかった。
僕は君と笑っていた。
何も無かった僕は、全てを手に入れ、全てを失って、心の灯火をみつけた。
_心の灯火_
テーブルに置きっぱなしの携帯。
ディスプレイに表示されるのは、君からのLINE通知。
引き留める言葉も、笑顔で見送る余裕も無い僕には、それを開く勇気さえ無かった。
このLINEを開かない事で、何か変わる訳じゃない事なんて痛い程よく分かってる。
こんなメッセージ一つに必死で意地を張る僕は、きっと誰から見てもみっともない人だ。
「今見るのはツラいから」と言って、明日も明後日も、1週間だって、僕は開けないかもしれない。
「ごめんね、こんな弱い人間で。」
_開けないLINE_
失って、捨てて、捨てられて、消えて、消して。
又、探して、見つけて、戻して。
遊ばれて、壊されて、飽きられて、捨てられて、どこかへ墜ちていく。
僕はいつの間にかツギハギだらけになっていた。
ツギハギの裏で、失った事実は増えて、取り戻せ無いものも増えて、そうして不完全な僕が出来上がった。
廃れて寂れた街のガラクタ置き場に、僕は壊れた人形みたいに虚ろな目で、ただ息だけをしていた。
失うものさえ無い虚しさが僕の心を占領していく。
ただ愛されたかっただけ、ただ愛したかっただけ。
たった二つの感情は、時に誰かをツギハギだらけにしていくきっかけになりかねないのかもしれない。
ツギハギなんてしなくていい、不完全なままで、僕を愛してくれる人がいればいいのに。
濁りかけた瞳に映した世界も、よく見たら全部不完全で、僕らは最初から不完全だったのかもしれない。
_不完全な僕_
夏が過ぎ去り、秋へと移りゆく頃の風が僕の頬を優しく撫でる。
土曜日の街角広場には、子供達が駆け回り、道行く人達の笑い声が響き、優しい陽の光が差す。
向こうから、褐色のトレンチコートに身を包んで、洒落た小ぶりのバックを肩にかた綺麗な女の人が、黒いハイヒールを鳴らして歩いくる。
上品なサイズのフープピアスは歩く度に揺れ、褪せたルージュの唇がクールでアンニュイな人。
ただすれ違うだけだった。
懐かしい香りがほのかに僕の鼻を掠めた。
その時に風さえ吹かなければ、気づかなかったかもしれないと、少しだけ風を恨みたくなる。
大好きだったあの人の香りは、今でも胸のどこかに染み込んで、忘れられない。
_香水_
𝒩𝑜.1
言葉はいらない、ただ傍に居られたら良い。
そんな都合のいい事を彼の前で強がって言ったけれど、本音を言えば不安で堪らない。
本当に愛されてるのか、私は貴方の何なのか。
けれど言葉にしたところで、不安が消える事は無いのだろうと心の片隅では分かっているのだ。
やはり、言葉はいらない、ただ…
_言葉はいらない、ただ…_