「一年後」
雪の降る季節も、桜の咲く季節も過ぎ去って、今はもう夕方でさえ明るい季節が来たね!!!
にしても、キミと一緒にいる数ヶ月間はボクにとってすごく濃密な時間だったよ!!!
なんせ、ボク基準だとちょっとぼんやりしているうちに100年くらい経っていることもザラにあるからね〜!!!
実際に見たわけではないが、もう少し経てば蛍が、しばらくしたら蝉の鳴き声と入道雲が、さらに待つと紅葉が見られるんだってね!!!とても楽しみだ!!!
それ以外にもきっと、まだボクでさえ知らないような素敵なものが、この星には溢れているんだろう?!!
この宇宙を、この星を守るために、ボクはできることならなんだってしなくちゃね!
キミとこの星で、この宇宙で、無事に一年後を迎えるために。
「初恋の日」
(「優しくしないで」&「二人だけの秘密」(5/2、5/3)と対にしても読める……かもしれない。)
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初めて見る景色、初めて見る花々、初めて見る人々。
今日から新しい場所で、新しい暮らしを始めます。
わたしの心は、夜明け前の空みたいな、期待と不安が入り混じった色。
これからここで、色んなことを覚えて、色んな人と出会って、それから……。
そんな時に出会ったのが、あなただった。
明るい栗色の髪を淡いピンク色のリボンで飾った、ふわふわのワンピースが似合う女の子。
まるで絵本から飛び出してきたお姫様のような、可愛くて儚いわたしの運命のひと。
小さな星のような、囁くような声で「こんにちは」と挨拶してくれたあの瞬間が今でも忘れられないの。
大人同士で話し合っているのを横目に、わたしたちも話をしたのを覚えているかしら?
内気で人見知りのあなたは最初こそ恥ずかしがっていたけれど、話しているうちにだんだんとお互いのことが分かっていって、最後には桜のような笑顔を見せてくれた。
あなたの好きなもの。淡いピンク色、灰かぶり姫の童話、牡丹の花、薔薇の香り。
わたしの好きなもの。群青色、楽譜の挿し絵、百合の花、メープルシロップの香り。
好きなものはまるっきり違ったけれど、好きな気持ちを分かち合った時、わたしはとても幸せだった。
それはそれは素敵な、素敵な初恋の日でした。
そんなある日、あなたが貸してくれた絵本に「騎士」というひとが出てきました。騎士というのは、大事な人を守る役目をもつ存在。
そのことを知ったわたしは、これから先もずーっとあなたを守れるような騎士になりたいと、そう思いました。
あなたが辛いと思った時にはわたしが盾となり、あなたを害する者が現れたら矛となる。そんなふうになりたいと、そう願いました。
あなたの騎士となるために、わたしは色んなものを読みました。あなたにとっての騎士となるために、親友であるために、願わくば初恋を実らせるために。
騎士でいられたあの時間、それはそれは幸せな、幸せな時間でした。こんな日がいつまでも続けばいい、そう思っていました。
でも、ぼろぼろになったあなたを、それをわたしに隠し続けようとしたあなたを見てから、彼奴があなたの前に現れてから、全てが変わった。変わってしまったのです。
どうして彼奴はあなたを傷つけるの?
どうしてあなたはそれを黙っていたの?
どうしてわたしは何もできなかったの?
わたしはあなたの騎士などではなかった。
ただ家が隣同士の間柄でしかなかった。
彼奴にとっては他人でしかなかった。
だったら。
だったら、もう一度やり直せばいい。
もう一度、ほんものの騎士になればいい。
あなたを害するものを荊で貫けば、
永遠に美しいお姫様を守れば、
わたしの大切なこの世界を守ればいい。
その為になら、私は───
「明日世界が終わるなら」
誰もが一度は「明日世界が終わるなら」という問いを自分に、誰かに投げかけたことがあるだろう?
「何を食べる?」
「どうやって過ごす?」
大抵はそんなふうに続く。
自分なら、賞味期限の切れたカップ麺を食べながらしまったままのゲームや本に手をつけるとでも答えようと思う。
世界に終わりが来ようが来まいが、自分の知ったことではないからいつもの休日と同じように過ごす。
それはいいとして、公認宇宙管理士の自称マッドサイエンティストであるあいつにこの質問をしてみようと思う。あいつならどう答えるか少し気になったんだ。
「あ!!!おはよう!!!今日は珍しく白ごはんにお味噌汁、ほうれん草のおひたし、それから焼き鮭だよ!!!オプションで卵かけご飯にもできるよ!!!」
……朝から元気だな。せっかくだから卵かけご飯にしようか。
「了解!!!」
「……で、ボクに聞きたいこととやらは何だい???明日世界が終わるならどうするとか?それにしても不思議な質問だよねー!!!」
「明日世界が終わるなら……あ、ちょっと待って!!!前提条件を確認しなければ!!!」
前提条件?
「そうだよ!!!前提条件によってボクの回答が大幅に変わっちゃうから!!!そこのところをはっきりとさせておかないとね!!!」
なるほど。それはそうだな。
あんたにとっての世界と自分たちにとっての世界はかなり規模が違うから……とはいえ、どう設定したものか。
「世界っていっても強制的に退学とかクビにされる……みたいな自分視点での世界なのか、たくさんの国を巻き込んだ戦争やパンデミックが起こる……みたいな観点での世界の終わりなのか、」
「この星が原因で起こる終わりなのか、宇宙ごと滅亡するみたいな意味での終わりなのか、あと宇宙管理機能が停止してしまうという意味での破滅か……によって答えが変わるよ!!!」
「強いて言うなら原因が特定できているかそうでないかでもだいぶん変化する!!!さぁ、どうする?!!」
……そこまで考えていなかった。最後随分と恐ろしいことを言われた気がしたが……宇宙管理機能の停止……?
そうだな。あまり規模の大きな話をされてもついていけないから、この星が終わることによる世界の終わり、ということにしておく。原因がわかっている場合とそうでない場合の両方を答えてもらうことにする。
「おっけー!!!そうだね、まずはこの星が寿命を迎えるのが明日だとわかったケースの話をしようか!!!」
……自分で聞いておきながらなんだが長い話になりそうだ。
「この星が明日寿命を迎えるとわかった時!!!ボクは公認宇宙管理士としてその権限を全力で使ってこの星の寿命を伸ばす!!!」
「こんなに生物の多くて美しい星はなかなかないからね!!!経年劣化を無理のない範囲で取り除いて、あと35億年程安全に過ごせるようにするよ!!!」
……聞く相手を間違えたかもしれない。
「あと、もし原因が巨大隕石だった場合には直接隕石を破壊するか軌道を変えるかな〜!!!」
「それじゃあ、次に移ろうか!!!」
自称マッドサイエンティストは話を続ける。
「原因不明の世界の終わりの場合……っていっても、原因がわからないのに『明日』この星が滅ぶ、ってわかっているのは若干謎だから!!!考える意味があるかどうか正直分からないね!!!」
「明日原因不明のまま星が滅ぶ時には!!!ボクのヒミツ道具を駆使して全力で原因を突き止めるよ!!!特定できれば原因を除去するのみ!!!それでも分からなければ……。」
分からなければ?
「一旦宇宙の時間を止めるよ!!!この星とその周辺をコピーして仮想空間内にペーストしてバックアップを作り、本部に協力を求めた上で原因をさらに分析する!!!」
……そうか。規模を小さくして質問したつもりだったが全然小さくなっていなかった。
悪いが前提条件をもうひとつ付け足す。
「回答に満足いただけなかったのかい???まあいいだろう!!!付け足したい前提条件は……もしかしてアレかい?!!ボクが公認宇宙管理士じゃなかったら、とか???」
その通り。
「難しいことを聞くねえ!!!まあいいや!!!」
「ボクがニンゲンで、この星が明日終わりを迎えるとしたら!!!」
「全力で抵抗するよ!!!原因が分かろうが分かりまいが、できることは全部やる!!!だって、他に暮らせる場所がないんだから!!!」
「もしそれでもどうにもならないって分かれば、キミと一緒にこの星の終焉を記念するパーティでも開こうかな!!!ケーキを作って、遊んでさ!!!最後の、最後まで、ね!」
でも、その頃になればキミたちニンゲンも科学技術を身につけて宇宙のどこかに避難したり、人工星を作ってそこで暮らしたりしているかも……なんてね!
「まぁ、明日世界が終わるってわかった時にはボクに教えてよ!!!どうにかするからさ!!!」
そうか。頼りになるよ。
「へへ!!!それほどでもあるね!!!」
「さて!!!それじゃあ今から公園でも行こうか!!!世界の終わりごっこでもしようよ!!」
わかったよ。……でも世界の終わりごっこってなんだ?
疑問はひとつ増えたが、とりあえず公園まで行こう。
……こういうなんでもない1日を、その時が来るまで大事に過ごさなきゃいけないな。
「君と出逢って」
宇宙が危機に晒されているからって突然キミを巻き込んでしまってからどのくらい経ったのだろうか?
ボクとしてはついこの間の話だが、ニンゲンのキミにとっては随分前のことなのかもしれない。
キミと出会ってから、ボクはいろいろ変わったんだ。
こう見えても、ね!!!
宇宙を愛し、守りたいという気持ちは変わらないが!!!
ボクは確かに昔から宇宙を愛していたよ。
でも、森を見ていても木は見ていないというか、あくまで管理対象として見ていたというか……。
とにかく、ちゃんと実情を把握していなかったんだよ!!!
データとしてキミたちのことは認識していたが、キミと出会わなければ、桜餅の美味しさも、料理の面白さも、心を通わすことの嬉しさも、何も知らないまま過ごすところだった!!!
百聞は一見に如かず、とは上手いこと言ったもんだねぇ!!!
キミといれば、これからもきっと、もっと楽しくて興味深いものが見つけられるんだろうね!
嫌な顔をしながらも、なんやかんや一緒にいてくれてありがとう!!!
これからも、しばらくの間よろしく頼むよ!!!
「耳を澄ますと」
深夜。突然目が覚める。時刻は2時58分。
……何でこんな時間に。仕方がないから水でも飲もう。
そう思って立ち上がる……今、何か音がした気がする。
気のせいだろうか。耳を澄ます。音はしない。
やはり気のせいだったか。早く水を飲んで寝てしまおう───
いや、やっぱり音がした。
さらに耳を澄ますと、やはり聞こえた。
オルゴールの音……だろうか?
おそらく自称マッドサイエンティストが何かしているな。
何でこんな夜中に音を立てるんだ。
真夜中に説教などこっちもしたくないが、近所迷惑である以上注意しなければならない。
……おい!今何時だと思ってるんだ!
真夜中だぞ!いいから音を止めろ!
「あ!!!もうとっくに寝たのかと思っていたよ!!!」
何やってる?音が響いてるぞ。
「えーっとね、これなんだが……」
そう言って手に持っているものを見せてきた。
両手で持てるくらいのサイズの楽器……だろうか?
「ご名答!!!これはカリンバっていう楽器なのさ!!!」
カリンバか……前に動画サイトで見たことがある。
鍵盤のような部分を指先で弾いて鳴らす楽器だったような。
「そうそう!!!そんなカンジだよ!!!」
「ボクも動画を見てちょっとマネしたくなってね!!!だから取り寄せたのさ!!!」
……それはいいが、どうしてこんな時間に演奏を?
「それはねぇ、キミに『ま〜たそんなもの買ってぇ〜』って言われるかもしれないと思ってだね……。」
ふぅん、こっちとしては変な買い物よりも近所迷惑になる方がごめんだよ。あんたの姿を見られる者は自分以外にはいないらしいが、立てた音を聞ける者はいるかもしれないんだろ?
「確かに!!!キミといるうちにすっかり忘れてしまっていたよ!!!悪かった!!!」
それならいい。でも別に人の買い物にそこまで口出ししていないと思うんだが……。演奏するなら夕方くらいまでにしとけよ。
それからあいつが夜にカリンバを演奏することはなくなった。
だが、しばらくしたあと、この辺りで変な噂を聞くようになった。
何でも、近くの空き部屋だらけのマンションのとある一室で、夜中になるとオルゴールのような音と子どもの鼻歌が聞こえてくるらしい……。
しかも「両方バッチリ聞こえる」というひとと、「何も聞こえない」というひと、中には「鼻歌っぽい音だけ聞こえた」というひとまで現れた。
……タイミング的に絶対あいつで間違いない。このままではあいつが町の怪異と化してしまいかねないので、タイミングを見計らって話をすることにした。
今は午前1時30分。いつの間にやら家を出ていたあいつを寝たふりをしながら待つ。さすがに眠い。がしかしここできっちりと落とし前をつけておかないと大問題だ。
……足音が聞こえる。帰ってきたらしい。
ご機嫌な顔をしてリビングに向かっているところを捕まえた。
おい!こんな時間まで何やってた?!
……まさかカリンバか?
「……キミの頭の中を少し拝見したよ。結論から言うと、……確かに真夜中のマンションの空き部屋でカリンバを弾いていたのはボクに間違いないよ……。」
「まさか音を聴かれているとは思っていなかったが!」
やっぱりそうか。真夜中にカリンバを演奏するのもマナー違反だし、それよりも勝手にマンションの空き部屋に入るのも立派な不法侵入だぞ!
「そのあたりは……管理者権限で何とかなると思って……。」
見苦しい言い訳をするな!職権濫用も無用だ!!
「悪かったよ……。だがひとつ否定しておきたい所がある。」
今更何を言ってるんだよ。
「確かにボクはカリンバを弾いていたが、鼻歌は歌っていないんだ。」
……え?
「だってキミも家で見ていただろう?!!ボクがカリンバの練習をしているところを!!!その時のことを思い出したまえよ!!!鼻歌なんか歌っていなかっただろう?!!」
……確かに。そう言われてみれば、こいつが鼻歌を歌っているところを見たことがない。
……じゃあその「鼻歌」を歌っている存在は何者なんだ……?
「知らないよ!!!ボクはその手の話、あんまり詳しくないからさ!!!」