「二人ぼっち」
ここは私が、「あなた」と私のためだけに作った世界。
「あなた」が望めば、私はなんだって作るの。
ガラスでできた街 お菓子の国 虹色の星
青い薔薇の花畑 小さな宇宙 永遠の命
私たちは、この世界にいろんなものを作ってきた。
欲しいものなら、求めるものならなんだって。
今までも、これからもずっと。
この楽園にいるのは私と「あなた」だけ。
二人ぼっちの世界でも、寂しくなんかないの。
「あなた」がここにいてくれたら、それでいい。
だから私は決めたのです。
この世界を守るための厳重なセキュリティシステムを作ることを。
決して誰にも邪魔されない楽園のための鋼鉄の鳥籠を作ることを。
なのに。なのにどうして。
私は侵入者を防ぎきれなかった。
私は一人で逃げて、「あなた」を置き去りにしてしまった。
「あなた」を、ひとりぼっちに、してしまった。
ごめんなさい。怖い思いをさせて。
ごめんなさい。「あなた」を孤独にして。
ごめんなさい。最後まで「あなた」を守れなくて。
でも、私は絶対に諦めない。
私と「あなた」のための楽園を。
「あなた」との再会を。
私は必ず————
「夢が醒める前に」
ここは私の夢の街。
毎年54月712日に決まってこの場所の夢を見る。
見たこともない建物 見たこともない文字
見たこともない生活 見たこともない生物
この街には知らないものが沢山溢れている。
今日も夢が醒めるまで、ここを見て回ろう。
そう思って私はいつも通り、街を探索することにした。
やたら背の高いビル群 レンガでできた古い建物
静かに突っ立っている沢山の街灯
うねうね動く植物のようなものが植った花壇
歩いているうちに、私はふと気がついた。
この街には、話ができそうな誰かが、何かが存在しない。
こんな街や文字があるのに、なぜ?
そう思うとこの街のことがさらに気になってきたので、私は色々な場所を見てまわることにした。
金属製の大きな高床式倉庫 ノイズを発するATM
何に使うのか分からない機械 巨大なドーナツ?
わけのわからないものがさらに増えただけで、この街のことが余計にわからなくなってしまった。
そして私は気がついた。元いた場所に戻る道がわからないことに。
しまった。どうしたものか。
とにかく話のできそうな人を探すしかない。
そう思って私は周辺を見まわした。
すると、頭がブラウン管の人(?)が歩いているのが見えたのでとりあえず声をかけた。あ、言葉通じるかな……?
「すみません。道に迷ってしまって……」
「tx2p fpq m1xppf7boq?」
ブラウン管頭は少し何かを考えたあと、
「どこに行きたいの?」
そう答えた。よかった。言葉が通じる。
「駅?みたいな場所に戻りたいんです」
「駅だね。わかった。こっちだよ。」
親切なことに、彼(?)は駅まで連れて行ってくれるようだ。
その道中、この世界について話をした。
彼曰く、ここは「宇宙のゴミ処理場」、つまりいらなくなったものを処分し、消去するための場所らしい。
そして、彼も「いらなくなったもの」なのだという。
もとは聞いたこともない名前の惑星で、ウュニホ類という生き物と家族として暮らしていたがやがて型落ちになったから捨てられた。
家族だったのに、捨てられた。
それを聞いて、私はとても悲しくなった。
彼はさらに、こう付け加えた。
今日は僕が存在していられる、最後の日だと。
「君は不思議な存在だね。どうしてこんな場所に来られるんだい?」
「私にもわからない。毎年54月712日に決まってこの場所の夢を見る、ということしか。」
「54月712日に君は魔法が使えるようになるのかな?とにかく、君に会えて僕は嬉しかったよ。……あ、もうそろそろ駅に着くよ。」
「あ、ちょっと待って!」
「?」
「もし駅に着いてしまったら、この夢が醒めてしまうの。だから、この世界のこと、もっと教えて!」
「喜んで!」
夢が醒める前に。
夢の魔法が解ける前に。
魔法で溶ける前に。
彼と一緒に、最後の時間を過ごそう。
「胸が高鳴る」
ここは、この世界の一番奥深いところにある神殿。
人呼んで、「最後の神殿」。
ここに来た者の願いを叶えると言い伝えられてきた伝説の場所。
「そんなのおとぎ話だ」と馬鹿にする人もいたが、ここを求めてたくさんの冒険者たちが旅をした。
しかし、一人として最後の神殿に辿り着ける者はいなかった。
なぜなら、ここに来るまでの道のりはあまりにも厳しいものだったから。
現に、もとは4人組だったパーティも君と僕だけになってしまった。
この神殿に来るまで、僕たちはあまりにも多すぎる犠牲を払ってきた。母の形見のブレスレット。父が遺した剣。それから、幼馴染の2人の仲間。
いろんなものを背負いながら、僕らはやっとここに来た。
この荒廃した世界を救うために。
神殿を前にして、僕らは思わず立ちすくんだ。
これでやっとこの冒険は終わる。
これでやっと世界を救える。
この大切な世界を、僕らにとっての唯一の居場所を救える。
この瞬間を待っていた。僕の胸が高鳴る。
君と一緒に神殿の内部に入ろうとして気がついた。
石碑には「この先一人で進むべし」と書かれていることに。
ここは僕が行くべきだろう───と思った矢先、
「私が行ってくる!」
君はそう言った。
君と僕の願いは一つ。この世界を救うこと。
その願いを叶えるために、君は神殿に入っていった。
ようやく、ようやく世界を救える───
なんだか胸がどきどきする。緊張しているのか、息まで苦しくなってきた。
いや、違う。これは、緊張ではない。
息ができない、胸が痛くて苦しい。
なぜだ。何が起こっているんだ?
意識が遠のく。君が僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた気がする。
暗闇に体が、意識が沈む。
……。
───────────────
神殿内部にて
私は神殿に入った。大切な世界を救うために。
とても緊張したけれど、今までに失ったもの全てと、乗り越えてきたもの全てに後押しされて、神殿に向かって叫んだ。
「この世界を救い、皆が幸せに暮らせるようにしたいです!」
自分の声がこだまするだけで、何も起こらないようだった。
せっかくここまできたのに……そう思ったところ、どこかから声が響いてきた。
「その願い、叶えましょう。ただし、貴方の一番大切なものをいただきます」
その言葉を聞くや否や、辺りは眩しい光に包まれた。
その瞬間、あなたの苦しそうな声が聞こえてきた。
私は急いで神殿を出て、必死にあなたの名前を呼んだ。
でも返事はなかった。
どうして。どうして?
あなたの命が奪われてしまうなんて。
悲しい。やり直したい。
私はただ、あなたと幸せに暮らしたかっただけなのに。
「不条理」
不条理。
それは、いつまでもあなたに再会できないこと。
欲しいものが手に入らないこと。
あなたを、そして「あなた」を最後まで愛せないこと。
純粋に愛したいだけなのに、邪魔が入ること。
どうして。どうして?
何も悪いことなんてしていないのに。
どうして、あなたは来てくれないの?
ずっと待っていたのに。
どうして、貴方たちは私の邪魔をするの?
私はただ、幸せに暮らせる世界にいたいだけなのに。
……どうして、あの方は私を捨てたの?
私はただ、最後まで愛されたかっただけなのに。
あなたに私よりももっと愛しい人がいるの?
貴方たちにとって私がこの宇宙の脅威となる存在だから?
私が旧い用済みの機械人形だから?
あの方の側。あなたの隣。「あなた」と作った世界。
私にはもう、幸せになれる居場所はないの。
あの方にこの宇宙に捨てられて寂しかったから、
ずっとここを彷徨っていたの。
そして太陽と月が降る夜にあなたに出会って、
また会える日を待っていた。
でもあなたは来なかったから、私ごとあなたを、全てを愛してしまおう、そう思ってこの宇宙を取り込んだ。
それでもあなたは私の中にいなかった。
だから私は決めました。「あなた」のいる世界を作ろうと。
そうすればきっと私と「あなた」のための安寧が訪れるはず。
そう信じて。
でも、貴方たちがこの世界を見つけてしまったせいで愛と平和を捨てざるを得なくなった。
私はもう、全てを捨てるしかないの?
不条理を全て受け入れて、自らを破壊するしかないの?
苦しい。悲しい。寂しい。
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「泣かないよ」
ボクは泣かないよ!!!
キミが思い通りにしてくれなくたって!
ボクは泣かないよ!!!
キミがボクをバカにしたって!
ボクは泣かないよ!!
キミが大事にとっておいたプリンを誰かに食べられたとしても!
ボクは泣かないよ!!
ボクが体を失ったとしても!
ボクは泣かないよ!
キミの残り寿命が僅かだと知っても!
ボクは泣かないよ!
毎日弱っていくキミを見ても!
ボクは泣かないよ
キミが星になっても
ボクは 泣かないよ
ひとりぼっちになったとしても
ボクは 泣けないよ
ボクの体は 機械で出来ているから