日向崎萱

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8/2/2023, 11:39:52 AM

花瓶の水を差し替えて、造花の脚を濡らす。
今日も今日とて瞼の裏の世界から戻ってこない彼を見つめながら。
「あなたがどうしても起きないから、もうこの子も枯れてしまった。なんてね」
病室に、私の声が響く。花の色が幽かに白い壁を染める。
僅かに開け放された窓から、鳥のさえずりが迷い込む。

日に日に彼が白と同化していく。

ちょっぴり賑やかなお土産をそこに。まるでお供物のように。
今日も今日とてあの世から戻ってこない彼を想いながら。
「あなたがいつまでも帰ってこないから、もうあの子も巣立ってしまった。ホントよ」
霊園に、私の声が響く。線香の煙が、思い出の風化を早める。
乾いてしまった墓石に、蜘蛛が一匹。白い糸を伸ばして。

日に日に彼の遺した温もりが、白く儚く錆びていく。

8/1/2023, 11:36:40 AM

大雨に、濃い霧。
この世界は、私を隠してくれる。
誰にも私を聞かせないし、
誰にも私を見せはしない。
全て遮断するソレに、一体どれほど助けられただろう。
毎日流れる、私は涙。罪のこもった、穢れた涙。
大雨に姿を隠す。世界がソレを黙認する。
「また明日も、大雨の中で泣くんだろうな、いつもの如く」
でももし、明日晴れたら、晴れてしまったとしたならば、
私の懺悔もバレてしまう。
涙の懺悔がかわいてしまう。
だから、明日はまた、雨を降らせて。

7/31/2023, 11:08:35 AM

私のそばによらないで。私の病がうつってしまう
この治せない病が。
もう私は手遅れだけど、せめてあなたには生きてほしい
だからお願い。私から離れて、あなたは逃げて

これは、本当はうつることのない病だけど、
今際の際であなたを見るのは、この世への未練を思い出させてしまう
自分が死ぬ運命なのが、悔やまれてしょうがなくなってしまうから

やっぱり最期は、一人でいたい
さようならって、私に言わせないで

7/31/2023, 8:18:09 AM

彼を見ないで。その穢らわしい眼差しで。
彼が穢れてしまう。

適当な卑下を自身へ。私は視線を逸らす。

私を映さないで。その澄んだ瞳に。
あなたが穢れてしまう。

警告を一つ。警鐘の悲鳴を聞きながら。