日向崎萱

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花瓶の水を差し替えて、造花の脚を濡らす。
今日も今日とて瞼の裏の世界から戻ってこない彼を見つめながら。
「あなたがどうしても起きないから、もうこの子も枯れてしまった。なんてね」
病室に、私の声が響く。花の色が幽かに白い壁を染める。
僅かに開け放された窓から、鳥のさえずりが迷い込む。

日に日に彼が白と同化していく。

ちょっぴり賑やかなお土産をそこに。まるでお供物のように。
今日も今日とてあの世から戻ってこない彼を想いながら。
「あなたがいつまでも帰ってこないから、もうあの子も巣立ってしまった。ホントよ」
霊園に、私の声が響く。線香の煙が、思い出の風化を早める。
乾いてしまった墓石に、蜘蛛が一匹。白い糸を伸ばして。

日に日に彼の遺した温もりが、白く儚く錆びていく。

8/2/2023, 11:39:52 AM