“落下”
落ちる―――
目の前でマグカップが傾く。
ジャンプしてきたキジトラのマーロの後ろ足が当たった。
マーロも気づき、すまなそうに俺を見る。
―ダメなんだ、それは―
彼女がどこか旅行に行った時に買ってきてくれた。素焼きの一点物らしい。
―マグカップぐらいは大切にしてね―と、いい加減な俺にわざと嫌味混じりに言った。
これは大事にするんだと決めたんだ。
俺の身体は宙を舞った。
次の瞬間、凄まじい音とともに、積み上げた本やガラクタが崩れ落ちる…そして、俺も床に打ち付けられた。
マーロは慌てて隣の部屋へ逃げていったらしい。
俺は…仰向けになったまま、天井を見つめホッと胸をなでおろす。
こんな時に、野球部で培われた瞬発力が急に発動された。
―間に合った…―
“未来”
―未来に希望を持って生きよう―
なんて綺麗事だ
希望を持つだけ馬鹿をみる
だって、現実は容赦無い
いくら頑張っても、いくら我慢しても、
だからいい結果になるとは限らないから
私はそっちの部類の人間だ
でも、そんな言葉を投げかける人は悪い結果になったことがない部類なのだろう
あるいは、考え方がポジティブすぎるのか…
その類いの人は気の持ちようだという
でも、違うんだよ
ちがうんだ
気持ちだけじゃどうにもならない事があるんだ
それを、わかってほしい
な!
“1年前”
ちょうど1年前の今頃、私は一般的に言う宇宙人に会った。
多分誰も信じてはくれないだろうと思って、誰にも話してはいなかった。
彼は、私にかなり先の地球の話をしてくれた。
私たちが言う宇宙人とは、未来人の事らしい。人類が進化し彼らになったのだ。
時間も空間も、私たちのいる場所は、
あるときの流れの中の一つにすぎない。
終わってもまた繰り返されているというが、よく理解はできなかった。
彼はそこから来ている、いわゆる研究者の様だ。
よくわからないが、とにかく人類は滅亡はしないということだ。
地球は幾多の困難にさらされるが、どうにか人々は生き繋いでいく。
それだけで、何となく、この先の漠然とした不安は消えた。
彼は何も言わず消えた。
何をしに来ていたのか…私になぜそんな話をしていったのか…今どこにいるのか…。
それがちょうど1年前の話―。
“好き嫌い”
すきなものはなーに?
えーっとねー!きいろいおはな!
じゃあ、きらいなものは?
とまときらい!だいきらい!!
小さい時は、好きなもの嫌いなもの、ちゃんと答えられた。
今は…よくわからない。
嫌いって言っちゃダメなんだよ、って気を使ってきた。
大好きって言ったら、面倒くさがられそうかなって、言わないできた。
上手に生きてきたと思っていたけど、結局は嘘つきなだけだったんだ。
今、私のまわりには、
私のことを大好きな人も、大嫌いな人もいない。
それは、幸せなのか不幸なのか…
“街”
人がいっぱいいて、ガヤガヤ騒々しくて、誰も知らない人ばかりで、誰も他人に興味がない、すれ違う人とも目が合わない!!
だから街は好きだ!
一方的に明るくて、単純に賑やかで、カラフルで、
歩くだけでわくわくする!
どんな格好で、どんなスタイルでも、何を言う人もいない
両手を挙げてスキップしながら歩いたって、誰の記憶にも残らない
自由!!これこそ自由!!
住まない街だからできる事