やりたいこと、ですか?
そんなの、沢山ですよ。
まず、花火を見たいです。
花火で遊ぶのもいいなって。
山登りもいいですねぇ。
先輩にも会いに行きたいです!
ねぇ、私、毎日、楽しく過ごしてます。
足湯にも行きたい。勿論、普通の温泉も!
だから、泣かないでください。
大好きな先輩が泣いてるのを見ると、私、…
「ごめん」
先輩には、涙より、笑顔が似合います。
私は、先輩のせいで死ぬんじゃないです。
先輩のせいじゃないんです。
「もっと楽しく過ごせたんじゃないかって思うと、」
私、先輩のお陰で凄く楽しかったです。
皆が私を同情して、哀れんで。悪気がないから余計に辛かったんです。
その中で、変わらず接してくれる先輩が、凄く大好きでした。
ねぇ先輩。お葬式?お通夜?には出てくださいね!私との約束ですよ。
「うん」
あと、先輩が結婚したら結婚相手と私のお墓に来てください!ロクでもなかったら罰当ててやりますから!
「しょうがないなぁ」
へへ、やっぱり先輩には笑顔が一番ですね!
大丈夫です、今度は私、絶対健康体に生まれますから!そしたら、一緒に、色んなこと、しましょうね!
「朝日の温もりを感じたこと、ありますか」
そんな問い掛けに、僕はなんと答えただろうか。
確か、何も答えられなかった。
ぼんやり、頭の遠くで、その言葉がぐるんぐるんしていた。
その子は、僕が受け持つ患者さんだった。
精神を病んだのか、そうは見えなかった。
会う度会う度に、「本当にこの子は精神を病んでいるのか」と思わされる不思議な子だった。
コミュニケーション能力に長けていて、明るくて、最低限の清潔感もある。
優しい性格をしている。友達が多そうだ。
会う度に性格が変わっているような気もした。
「昔、淡路島の画像を検索して。
それが偶然日の出の写真で、凄く綺麗でした」
「そうなんですねぇ」
「この日の出。日中の太陽とも違って、なんだか温かいんです」
適当な相槌くらいしか打てないのが情けないくらいに素敵な会話を繰り広げていた。
恐らくこの子は分かっている。僕が、カウンセラーとして、人として、いかに未熟か。
一時間という限られた時間の中で、何度か感じたかもしれない。
ふと、あの子の言った朝日の温もりの会話を思い出した。
指は勝手に動いていた。検索欄には「淡路島 朝日」とあった。
薄紫の空に、煙のような雲。オレンジ色の太陽は、微笑むでもなく、ただ静かだった。
僕は、その日、昼休憩が終わるまで、その画像から目が離せなかった。
人生は、岐路だらけだ。
右に進むか、真ん中に進むか、左に進むか。
立ち止まって、首を吊ることも出来るだろう。
どの方向に何があるかなんて、大したことではない。
だが、その道は自分でしか決められない。
「幼いから」は免罪符にはならない。
幼かったら何をしてもいいのか?
幼くても、岐路には立つ。
現実は、そう甘くはない。
「あの時こうしておけば良かった」とならないように。