飴玉

Open App

「朝日の温もりを感じたこと、ありますか」


そんな問い掛けに、僕はなんと答えただろうか。

確か、何も答えられなかった。

ぼんやり、頭の遠くで、その言葉がぐるんぐるんしていた。

その子は、僕が受け持つ患者さんだった。

精神を病んだのか、そうは見えなかった。

会う度会う度に、「本当にこの子は精神を病んでいるのか」と思わされる不思議な子だった。

コミュニケーション能力に長けていて、明るくて、最低限の清潔感もある。

優しい性格をしている。友達が多そうだ。

会う度に性格が変わっているような気もした。


「昔、淡路島の画像を検索して。

それが偶然日の出の写真で、凄く綺麗でした」

「そうなんですねぇ」

「この日の出。日中の太陽とも違って、なんだか温かいんです」


適当な相槌くらいしか打てないのが情けないくらいに素敵な会話を繰り広げていた。

恐らくこの子は分かっている。僕が、カウンセラーとして、人として、いかに未熟か。

一時間という限られた時間の中で、何度か感じたかもしれない。

ふと、あの子の言った朝日の温もりの会話を思い出した。

指は勝手に動いていた。検索欄には「淡路島 朝日」とあった。

薄紫の空に、煙のような雲。オレンジ色の太陽は、微笑むでもなく、ただ静かだった。

僕は、その日、昼休憩が終わるまで、その画像から目が離せなかった。

6/9/2023, 11:35:12 AM