普段とは別のところでロードワークしようぜ!
特にこだわりのない俺はその提案に二つ返事で了承した
訪れた場所は野花が群生しているのどかな公園で、舗装された道も広く走りやすい良いところだった
スプリントと休憩を交互に行い、そろそろ終わるかという言葉が途切れたので顔を向ける
公園の方を凝視しているようで、その視線を追ってみるとそこには、開花時期を迎えたマーガレットで花占いをしているっぽい子供たちがいた
「花占いってイングランドでもやってるんだね」
「だな。世界共通の文化って面白いよなー!起源はフランスっていう説が濃厚らしいけど」
そんな釘付けになるものではなさそうなのに、子供たちが花びらの枚数に一喜一憂している様子を目を細めて見守っている
何が彼をそうさせるのかと思案し、あるキーワードが口滑る
「歯ブラシ占い…」
バッと勢いよくこちらを向いた彼は羞恥からか顔を赤くした
「おっ、まえなぁ!人の黒歴史をほじくり返すなよ!」
「えー、俺別に黒歴史なんて思ってないよ」
「そりゃお前の黒歴史じゃねえからな」
彼にとってはセンシティブな事らしく、そっぽを向きポコポコとご立腹のご様子だ
暗に関係ないと言われたことは面白くない
俺のことで悩んでたくせに
そんなこと言っても彼の機嫌を損ねるだけなので、意識的に甘く、柔らかく声を発した
「ごめんね。許してくれる?俺、ちゃんと好きだよ」
こてんと小首を傾げる仕草もつけて見つめる
この顔に弱いことは分かっていたし、なんだかんだ俺に甘いのでしょうがねえなー!と許してくると思ってた
だけど今日はあと一歩届かなかったのか、最後の抵抗なのか顔だけ振り向いて彼は呟くように言った
「…花にでも聞くわ」
お前のそういうめんどくさいところが好きで嫌いで、やっぱり好き
イングランド最大の州、ヨークシャー。
シーズンオフの今のうちにイングランド観光しようという話になって、イギリスの中で一番に星を獲得したレストランがあるとかでそこで食事をしたり、景色を見たりする日帰り旅行先として訪れた。
ゲームで見たファンタジー世界のような景観には、物事にあまり関心を持たない自分でもワクワクさせられた。
観光ガイド情報を昨晩頭に叩き入れたらしい彼は、あちこち指をさして建物の造りがなぜこうか、地理がどうの経済がどうのと解説をしてくれる。
正直話半分で聞いて、解説する彼自身を見ていた。
上等なアメジストがはめ込まれたような目に映る街は、自分の目で見るよりも何倍も美しく、住み心地が良さそうだ。
「次に住む場所はこういう長閑で街並みが綺麗なところも良いかもなー!」
うん、と一言の相槌から呆けているのを察知したのか、ちゃんと聞けよなーっと不貞腐れる姿を見て、いたずら心が顔を出す。
お前の瞳に映る街に引っ越ししたい。
なんて言ったらどんな顔するのかな。
改めて考えると、今までやりたいことなんてさしてやっていなかったかもしれない
バスケも絵画を描くこともバイオリンも
やってほしいと頼まれたり、やれと言われたりしてやったことだし
興味はあったから完全に自分の意思がなかったとは言わないけれど
それでも『やりたいこと』とは違う気がした
与えられるだけじゃ本気になれないし楽しくない
だから今までやってきたことはすぐに飽きてしまったんだと思う
そう、だからさ
自分で見つけた夢と、その夢を叶えるために必要なことは全部俺がやりたいことだから
簡単に飽きたりなんかしないからさ
俺もこんなに何かに夢中になることが初めてで、絶対なんて保証できないけど
そんな怯えないでくれよ
俺の部屋は割と日当たりが良い
学校に行く1時間前ぐらいにベッド横のカーテンの隙間から陽が溢れ、目元を温められて覚醒する
覚醒したとはいえ、すぐ顔洗って歯を磨いてと身支度を整えることはせず、ゲームのデイリーをこなす
まだ起きたくないしできるなら惰眠を貪り尽くしたい
ほんと無限に寝ていいなら寝ていたい
微睡に身を任せて眠りに落ちる瞬間なんてサイコーなのにさ
「起きろ〜〜〜!朝だぞ!早く支度しろ!」
最近なんて、太陽様自ら起こしに来るんだからおちおち二度寝もできやしない
それがひどく、あたたかい
人生の岐路とか運命の分かれ道とかめんどくさい
そこで選択したもので今後の人生の大半が決まるんでしょ?理不尽すぎ
だからなるべくそんなことが起こらないように、ってわけでもないけど、変化のない日常を送ってた
友達も恋人も必要と思ったことないし、娯楽はゲーム・漫画があれば退屈しのぎになる
勉強とかめんどくさいけど必要な時に必要な分だけやればいいからそんなに時間は取られない
だからこのままでいい
このままがいい
そう思ってたのに
「面白い!お前はそのままでいい!」
今まで歩いていた道から曲がらず進もうとしても、無限に岐路が現れる
自分が想像していたよりずっと岐路ってやつは理不尽で横暴で、美しい形をしていた