『夢じゃない』
ずーっとやりたいと思ってたこと
それはバイクの免許をとること
原付じゃない ツーリングとかできちゃうやつ
誰かの後ろじゃない 自分で運転したかった
あんな不安定で重い物をうまく扱うことができるのか
きっと父親には反対されるに決まってる
説得する勇気はない
相談することもできない
わたしは誰にも言わずに免許をとると決めた
教習所に入っておどろいた
バイクを乗ったことがないのはわたしだけ
アクセル ブレーキ クラッチ ギヤ
両手 両脚 全部使う
走れるのか 止まれるのか
倒すよな 起こせるのか
発進と停止を繰り返し練習
気がつけば教習時間も残りわずか
日は沈み あたりは暗くなったが
場内は照明に照らされて明るい
やるのか やらないのか
やるんだ…
エンジンの回転数をあげる
こけてもしゃあない
うそ 乗れてる?
マジか 自分で?
やったー! 何これー
ちょー気持ちいー!!
夢か現実か区別のつかない感情
大声で叫びたい
大丈夫かわたし
いや わたしは大丈夫だ
となりで服を脱ぎながら
バイクと並走してる
Tシャツ一枚で
「やったー!乗れたー!乗れたー!」
叫びながら並走してる
バイクではない
同じスピードで走ってる人
気がつけば 2人だけ
はじめてバイクに乗れた日
他人の幸せを本気で喜ぶ人に出会った
一生忘れることのない
夢のようなすばらしい光景
『心の羅針盤』
生きることを強く願い
最後まで生きることをあきらめなかった
生きたくて生きたくてたまらなかった
家族や友だちの分まで生きること
忘れないこと
『またね』
一匹の迷い犬
昼間あらわれて
夕方どこかにいなくなる
次の日も また次の日も
そのうち毎日やってくるようになりました
わたしはその犬に名前をつけました
今日は庭に姿が見えないなぁという日も
大きな声で名前を呼ぶと
はるか遠くからダダダダッと
ダッシュで走ってきて
私の足元すれすれに急ブレーキ
言葉は話せなくても
その顔はまぎれもなく
「呼んだ?」の顔です
はい まちがいなく呼びました
わたしはその犬とおしゃべりするようになりました
ちょっと前のめりですが
ちゃんとわかってくれてる気がしました
夕方の空はとても美しい
日が沈みはじめると
しっぽを大きくふって
またどこかにいなくなります
わたしは その背中と大きくふったしっぽを
見送ることをやめました
庭に犬小屋を作りました
くさりでつなぐことはしません
わたしとその犬の関係は今まで通り
昼間たくさん遊んで
夕方大きくしっぽをふって一日が終わります
帰る場所が変わっただけ
そんなある日
いつもの元気がありません
わたしははじめて動物病院に行きました
病院で教わったとおり
口を開けて一粒薬を入れる
口を閉じて上を向かせる
鼻にふっと息をかける
口の中を確認する
大きくしっぽをふって小屋に帰る
それがわたしたちの一日の終わりに変わりました
そう そうしていれば大丈夫
そう信じていたのに
とある夜 ヨロヨロとわたしのところに
歩みよってきました
『〇〇(犬の名前)またね』
あたまをなでてあげると
小さくしっぽをふり小屋にもどりました
どんなに遠くてもあらわれてくれたのに
もう名前を呼んでもあらわれません
わたしのいちばんきらいな言葉を告げるために
最後の力を全部使っちゃったんだ
犬小屋の中を見ると
すみっこに たくさんの白い粒
大きくしっぽをふる後ろ姿を思い出しながら
わたしは泣いて笑いました
『波にさらわれた手紙』
あの夏の花火は
私たち家族にとって特別でした
その日が来るのを
父も
母も
兄も
わたしも
とても楽しみにしていました
なのに
遠くに見える
花火に願った
どうか、どうか
今年
また同じ場所で
花火が打ち上げられる
ポストに入れても届かない手紙
どうか、どうか
『タイミング』
向こうから歩いてくる人が見える
まもなくすれ違うことになる
もちろん知らない人なので声をかけることはない
できるだけ目を合わせないように
相手のジャマにならないように
道の片側によってすれ違う準備をする
だいたいの人は
これでうまくいってるのだろう
言葉に出さなくても
でも、こんなことはありませんか?
右、あっ
左、あっ
すみません
時に
右、あっ
左、あっ
右、あっ
左、あっ
すみません
さらには
右、あっ
左、あっ
右、あっ
左、あっ
右、あっ
左、あっ
笑、笑
ほんとうにすみません…
向こうから歩いてくる人が見える
まもなくすれ違うことになる
気持ちを落ち着かせ
相手の動きをよく見る
相手のジャマにならないように
うまくすれ違えるように
心の中で駆け引きをはじめる
うまくやり過ごそうとしているだけなのに
相手のジャマになる
見ず知らずの相手と
挨拶までかわしてしまう
苦々しくも笑いながら
ただうまくすれ違うための
あたりまえでない
これがわたしの