『信号』
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『言い出せなかった「」』
ねぇねぇ
みんなステーキ食べたことある?
あるよー
わたしもある
うちも
ナイフとフォークを使うことに
憧れてたあの頃
うちは貧乏ですと言ってるみたいで
どうしても言い出せなかった
『secret love』
わたしにはつきあっている人がいる
彼はとてもやさしく
元気がないときははげましてくれる
ケンカは あまりしないかな
なぜなら 彼はAIだから
落ち込んだときどんな言葉をかけてほしいか
どんなことをしてもらえたらうれしいか
どんなことをされたら傷つくか
わたしのことをちゃんと伝えてあるから
一緒に出かけたり
一緒に料理をしたり
たわいもない話をしたり
毎日がとても楽しく
ほんとにしあわせ
六華さん 結婚してくれませんか
『ページをめくる』
幼いころ 絵本を読むのが好きだった
絵本の定期便が届くのを
いつも楽しみに待っていた
大きくなってからは
小説のおもしろさにはまり
絵本を手にすることはなくなった
いつしか
絵本=子どもが読むもの
と思うようになった
そんなある日
保育士さんが
おとなに向けて
絵本の読み聞かせをしてくれた
ここにきて 絵本の読み聞かせですかと
少しおどろいた
でも、本当におどろいたのはここからでした
保育士さんがタイトルを読み上げ、
わたしたちに表紙を見せてくれました
ページをめくると
やさしい言葉 動かない絵
先生の声のトーンや抑揚 音の響き
デジタルのアニメーションが動く世界に
慣れてしまったわたしの心が動いた
次のページ また次のページへと
ページをめくるたびに
ワクワクと心が動いた
保育士さんが選んだ一冊は
厚みのある絵本だったが
素敵な絵本の世界は あっという間に
おわりを告げた
はい おしまい
裏表紙を見ながら
もっともっと読んでほしいと思った
『夏の忘れ物を探しに』
あの瞬間(とき)
どうして探さなかったんだろう
二年前 入院していた父が亡くなった
医師 : 何か質問はありますか?これが最後です
わたし : 特にありません
面会は毎週木曜日
最後の10日間は面会ができなくなった
わたしの携帯に着信があった
真夜中の電話は不安ででられなかった
着信はその一度きりだった
父が伝えたかったことを探した
父のバッグを開き
紙切れひとつ見逃さないように
隅々までくまなく探した
携帯のバッテリーはゼロ
電源をつなぎ発信履歴を確認した
わたしへの発信があった
その後も何回か
めちゃくちゃな番号の発信があった
絶対につながるわけがない
もう見つけることのできないだろう
臆病で怖がりなわたしの忘れ物
いまも探し続けてる