真鶴。🐰

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11/25/2023, 10:52:05 AM

『明日の東京都の最高気温は、マイナス18℃を予想しています。各自、外に出ないようお願いします』

異常気象。いくら師走とはいえ、マイナス18℃は寒すぎる。
明日は吹雪になるそうだ。去年はこんなことなかったのに。

「戸締りはしっかりして、明日の分のご飯はいまのうちに買っておこう。明後日には晴れるはずだから……あ、念の為にお水も買っておこうかな。非常食になりそうなものもいくつか買っておこう」

重たい買い物袋を持って家に帰ると、室内なのに吐く息が白かった。
此処もきっと寒いんだ。
買ったものを片付けて、すぐにお風呂に入る。
温かい。生き返る。
肩まで浸かって数を数えた。この瞬間が至福の時だ。
ふかふかのバスタオルで濡れた身体を拭いて、下着を付けてパジャマを着る。
ふと、買ったはいいものの着ていないセーターがあることを思い出した。

普段は選ばない赤色のセーター。もこもこすぎて、なんとなく着るのを躊躇っていた。
でも。

「明日くらいは着てもいいかな」

誰に見せるわけでもないし、このまま着ないのは勿体ない。
買った時はセーターを服の上から当ててみただけだけど、似合うといいな。
異常気象。退屈な日常の中に、ちょっとした楽しみが出来た瞬間だった。



#43 セーター

10/26/2023, 11:14:37 PM

「愛言葉を言いなさい」
「合言葉?」
「ちがう。愛言葉」
「合言葉なんて決めたっけ」
「ちがう。愛言葉」
「山と言ったら川みたいな」
「それは合言葉」
「うん。だから合言葉でしょ?」
「ちがう。愛言葉」
「んもうー。合言葉ってなんだよう」
「え、本当にわかんないの?」
「うん」
「私に愛してるって言いなさいよばか」
「え、あ、ああー。合言葉じゃなくて愛言葉か」
「言いなさいよばか」
「愛してるよ」
「きゃ」




#42 愛言葉

10/24/2023, 9:21:17 PM

頭が痛い。文字が見えない。
それでも熱があるので帰りますなんて言えなくて、結局定時まで働いた。
バスで帰るか、自転車で帰るか。
明日のことを考えれば答えは明白だ。
自転車で帰ろう。
ただでさえ朝が早いのに、自転車を回収するためだけに明日の休日を費やすなんてむりだ。
明日は私が動けない。
そうなれば自転車は回収できない。
回収できなければ駐輪料金が跳ね上がる。
それはむりだ。財布が悲鳴をあげる。

自転車を漕ぐとフラフラした。
だいぶスピードが遅い。声に出してはあはあ、と言っている。
いったい何度熱があるのだろうか。帰ったらすぐにはからないと。
ようやく家に着くと熱をはかって笑ってしまう。
三十九度越えてるー。
初めての数値にそりゃ文字も見えないわと納得する。
そしてそのまま布団に入り、すぐに寝た。

熱が下がった頃に思うのだ。
誰も助けてくれなかったなって。
私の教育係のあの人も、私が(何を言ってるのか)わかりませんって言ったら冷たい反応だったし。
何度も文字を打ち間違えて、誰の目から見てもおかしかったと思うのに、誰も何も言ってくれなくて、定時までこれやってねって。

今思えば、あの会社はブラックだったのかな。
だって皆がいる前で上司が部下を叱咤するし、先輩達は皆、私が挨拶をしても無視してた。
だからきっとやめて正解。場所も遠かったしね。

あ、今はちゃんとした場所で働いてるよ。
皆優しくて仲がいいの。
だから今更惜しい人を失くしたなと思っても遅いのよ。
行かないでって、懇願されたって許してあげない。
だって貴方のとこのバイトさん、私のこと無視するんだもん。
いざって時も知らんぷりで仕事を押し付けて。

だからばいばい。



#41 行かないで

10/24/2023, 12:38:27 AM

どこまでも続く青い空、白い雲、きみへの想い。

好きだって言ったよね。

僕の一生をきみに捧げるから、きみの一生を僕に頂戴って、言ったよね。

好きなら当たり前のことを言っただけ。

一分でも一秒でもきみから目を離したくない。

なのにどうして僕から逃げようとするの。

僕以外の男なんて見ないでよ。

誰そいつ。

クラスメイト?

知らないけど。

ねえ、僕達付き合ってもう長いんだしさ、そろそろきみの家族に僕を紹介してくれたっていいんじゃない?

きみを産んでくれたお母様、きみを育ててくれたお父様。

尊敬に値するお二人にご挨拶をさせてほしいんだ。

勿論、高級な菓子折りを用意する。

普段のきみの僕への態度も、他の男との逢瀬も、この日ばかりは目を瞑るから。

え、どうして会わせてくれないの?

付き合ってない?

誰と誰が?

え、え、何を言ってるの。

聞こえない、聞こえない。

え、付き合ってる人がいる?

僕じゃなくて?

は?

誰だよそいつ、連れてこいよ。

え、クラスメイト?

浮気じゃん。

僕という恋人がいながら、そんな奴と付き合ってるなんて。

浮気だ、浮気だ、浮気いいい。

あ、ねえ、ところでさ。

僕達付き合ってもう長いんだしさ、そろそろきみの家族に僕を紹介してくれたっていいんじゃない?

きみを産んでくれたお母様、きみを育ててくれたお父様。

尊敬に値するお二人にご挨拶をさせてほしいんだ。

勿論、高級な菓子折りを用意する。

普段のきみの僕への態度も、他の男との逢瀬も、この日ばかりは目を瞑るから。

え、どうして会わせてくれないの?

付き合ってない?

誰と誰が?

え、え、何を言ってるの。

聞こえない、聞こえない。

え、付き合ってる人がいる?

僕じゃなくて?

は?

誰だよそいつ、連れてこいよ。

え、クラスメイト?

浮気じゃん。

僕という恋人がいながら、そんな奴と付き合ってるなんて。

浮気だ、浮気だ、浮気いいい。

あ、ねえ、ところでさ。

僕達付き合ってもう長いんだしさ、そろそろきみの家族に僕を紹介してくれたっていいんじゃない?






#40 どこまでも続く青い空

6/30/2023, 10:36:10 AM

私ときみは、赤い糸で繋がっている。
見えない糸は産まれた時からあって、歳を重ねていく度にきみとの距離が縮んでいく。
そうしてようやく会えた。私が高校一年生になった頃だ。

「やっと会えたね」

穏やかな風が吹く四月。桜の花弁が美しく舞っている。
最高のシチュエーションに、私の心は踊っていた。

風で乱れる髪を手で直しながら、私はきみに近付いていく。
きみは私に気が付くと、驚いたような顔をする。
私もだよ。
こんなところで会えるなんて思わなかった。
だけどもう大丈夫。私ときみは今日からずっと、一緒だよ。

そしてきみは口を開けると、開口一番私にこう言った。

「ごめんなさい。あの、どなたですか?」





#39 赤い糸

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