◎桜
#62
花弁を巻き上げて遊ぶ風の背を撫でて
どこから来たかを問えばくすくす笑われ
髪を弄ばれた。
やり返そうにも手は空を切る。
そうやってひとり、風と戯れていると
いつしか満開の桜の古木に行き着いた。
風はいつの間にやら去っていた。
苔むした幹に手を当てて耳をすませば
か細い声が微かに届いた。
──時が、きた
驚いて体を引き離すと、
風もないのに花弁が一斉に吹き飛び
びいどろのようにしゃらしゃらと煌めいて辺りに舞い落ちた。
花弁の嵐の中、
古木は跡形もなく消えていた。
◎君と
#61
君に手を伸ばす。
君の喉に手をかける。
僕は君で、君は僕。
顔が同じ僕ら。
魂までも同じ。
君の喜びは僕の喜び。
君の怒りは僕の怒り。
君の哀しみは僕の哀しみ。
君の楽しみは僕の楽しみ。
だから、
君の罪も僕の罪にしよう。
おやすみ。良い夢を。
僕が、君の悪夢と苦しみを奪うから。
僕が、君と君の罪を背負って生きるから。
◎空に向かって
#60
空に向かって人差し指をたてる。
自分が何よりも一番に相応しいと
主張する。
君は見上げるか、頂きを。
君は超えられるか、世界を。
これより上へと登っていけるか。
迷え、進め。
誰も見たことのない景色を目指せ。
その他があるからこそ一番は輝く。
だが、輝きは一つではない。
現状を打破し更に増した輝きで
人々を魅せよ。
それこそが空を目指す我々人類の
進化である。
◎はじめまして
#59
Hello、こんにちは、こんばんは、
はじめまして!
僕めはレイン。
アナタ様の道化であり、師匠であり、
玩具。
いつかアナタ様を殺す愚者なれば?
さぁ、僕めを見つめて?
見逃がしてはいけないのです。
よくよく御覧じませ?
このちっぽけな牙が鉤爪が
怨敵を、天を、切り裂く様を!
雨!雨!
甘露なりや!
煌めく星までもが降り注ぐ!
さあ?さあ!カルナバルの始まり?
Shall we dance!
脊髄反射で踊りましょう!
アナタ様の千鳥足を支えます故に。
油断しないで、目を離さないで?
この手はアナタ様の首にも
絡みつきましょうとも!
さよなら-Say Goodbye-は
まだまだ遠くにありましょうがね。
虎-オオキナネコチャン-も見つめて狙ってる!
何故?Why?
だって美しいものね
アナタ様の得難き極上の魂!
あくまでdevilな僕めにはお宝ですとも。
逃がしはしません、My Sweet!
◎涙
#58
幼い頃は些細なことで泣いたものだ。
今となっては人前で泣くことは無い。
涙は血をろ過したものらしい。
脈は正常。
私は生きている。
ならば何故泣けないのか。
自分の冷静さが時々恐ろしかった。
周囲に馴染めていない気がして
不安になった。
故に、私は全身を改造し、
浪漫の塊となった。
右手には大砲!
左腕には火炎放射器!
内部には冷却機関!
目にはサーモグラフィや照準機能etc!
ふーーむ、浪漫。
涙など流れはしない。
これが私の求めた姿であるッ!!