◎桜
#62
花弁を巻き上げて遊ぶ風の背を撫でて
どこから来たかを問えばくすくす笑われ
髪を弄ばれた。
やり返そうにも手は空を切る。
そうやってひとり、風と戯れていると
いつしか満開の桜の古木に行き着いた。
風はいつの間にやら去っていた。
苔むした幹に手を当てて耳をすませば
か細い声が微かに届いた。
──時が、きた
驚いて体を引き離すと、
風もないのに花弁が一斉に吹き飛び
びいどろのようにしゃらしゃらと煌めいて辺りに舞い落ちた。
花弁の嵐の中、
古木は跡形もなく消えていた。
4/4/2025, 1:58:35 PM