◎最初から決まってた
#19
双子を忌み嫌う風習は各地に根強く、
かくいう私が産まれた村にも双子の片割れを川に投げ込むという非人道的な伝統があった。
小さい頃、疑問に思って大人に聞いたことがある。
「なんで、あの子たちは離れ離れにならなきゃいけないの?」
決まって大人たちは私の頭を撫でて、こう言った。
「双子は二人とも生きてると人間になりきれないんだよ。だから片方を神様に返して代わりに恵みをいただくんだよ」
何度も聞かされた言葉だ。
いつしか私も疑問を持たなくなっていた。
死の際に立ってようやく、その純粋な疑問を思い出した。
何故、あの子たちは産まれてすぐに命の使い道を決められていたのか。
それは───
川の神に成り代わった
邪な竜蛇を鎮めるため。
一つの命を二分した存在である双子は、
人でありながら存在があやふやだ。
その特性を活かしてだましだまし竜蛇を鎮めてきたのだ。
だが、貢がれた半分の魂は着実に竜蛇へと蓄積されていた。
そしてとうとう騙された真実に気付いた竜蛇が、怒りを爆発させた。
いや、怒りを爆発させたのは今まで捧げられた片割れたちか。
川は水かさを増やし、うねり、人々へ襲い掛かった。
いつしかこうなることは先祖たちも分かっていただろう。
それでも、”今”のために”未来”を犠牲にしたのだろうか。
ならば、こうなることは最初から決まっていたというのか。
悔しく思いながら、
私の意識は闇へと飲まれていった。
◎太陽
#18
日差しが肌に突き刺さる。
まるで私の罪を咎めるように。
あのとき弟を殺せなかった所為で、
今、沢山の人たちが苦しんでいる。
けれど、あのとき弟を殺したとしても
天におわす太陽は私を咎めただろう。
どちらを選んでも結果は変わらなかったのなら、
そのとき後悔しない道を選んだ私を、
私だけは褒めてあげるのだ。
◎鐘の音
#17
菅原道真が京の都の方角を眺めながら
梅の木を想う。
「とうとう左遷されてしまった。私の栄光もここまでか……あぁ、梅の花よ。春の風が吹いたなら、香りを送っておくれ。そして、私がいなくなったからといって、春を忘れずに咲くのだよ。」
その夜、梅の木が飛来し大地を震わせ、
遠くで鐘の音が鳴り響いた。
”擬音”精舎の鐘の声とはこのことか。
「ドッ「ゴォ〜ン」」
◎目が覚めるまでに
#16
研究室からのそりと出てきた竜也は、
低い声で「コーヒー」とだけ言い放った。
海人はそれを聞いて溜め息を吐き、薄めのインスタントコーヒー───ではなく。
麦茶を差し出した。
「お前、何徹目?」
「三徹目……いや四か?」
「そうか家に帰れ」
海人はにっこりと笑ってはいるが、目が笑っていない。
(しまった)
何故か、海人はかなり怒っている。
頬をよく見るとピクピクと引きつっていた。
竜也はそれから目を逸らし、
ぐいっとひと息にコーヒー(麦茶)を煽ると身を翻した
が
ぐらりと視界が歪み、膝から崩れ落ちた。
「よーく寝てな、馬鹿野郎」
竜也が寝落ちたのを確認すると、
海人は二人に電話をかけた。
「竜也は寝かせたから戻って来てくれ」
薄暗い部屋の中を三人の人影が覗き込む。
「ちゃんと寝てるか?」
「ぐっすりだな」
「耳栓も付けとくか」
「良い案だ」
竜也が熟睡しているのを確認した後、
海人はそっと扉を閉めて二人に向き直った。
「それじゃあ、作戦を確認するぞ」
「「応」」
「燈真は広場の飾り付け、俊一は料理……あ、ヘルシーで胃に優しいヤツな。俺は荷物の受け取りと道具の準備。で良いよな?」
ニヤリと笑って全員が作戦にうつる。
──MISSION──
竜也の目が覚めるまでに、
誕生パーティーの準備を完了せよ。
◎病室
#15
病室のベッドにはテーブルがついてる。
あれ、かなり素晴らしいと思う。
なんでって?
そりゃあ、心地よいベッドの中で紙とペンが揃うんだよ?
最高以外の何ものでもないと思うんだけれど。
紙とペンがあれば、
絵も文も記号も模様もメモも書ける。
色や書き心地、メーカーを変えればテンションを上げることもできる。
想像力の全てをベッドの上で存分に発揮できる。
入院したいわけじゃないけど、良いなぁ
って思う。