『moonlight』
数年に1度 紅い月明かりの夜
その時のみ 開かれる
己の力 解放の瞬間
それは本人にも分からない
その夜だけは、
そのものの姿かたちも
何が起こっているのかも
誰にも―――わからない
絵本のお話と思われていたはずの
月明かりの物語
それは……こんなおはなし―――
📖´-
なぜこの話が残っているのか?
それはこれを偶然見たものが
外から見ていた者がいたからか
はたまた、
生き残って物語にしたため
今日に繋いだから
……かもしれない
〜シロツメ ナナシ〜
『今日だけ許して』
頼む…待ってくれ……
今じゃない……今じゃないんだ…!
こんなタイミングだけは
許してくれ…!
いつも泣きたい時に泣けないのに…
なんでこんな……
こんなに人がいる時に限って
なんでこんなに泣きたくなるんだよ…!
ほんのちょっとの
きっかけやタイミングで
コップの表面張力の限界のように
間違ってダムが開いたかのように
涙が少しずつ
それでもとめどなく流れてくる
耐えてくれ…俺……!
後で思う存分、泣いていいから…!
せめて表情だけは
普段通りか 笑顔になるように
顔に力を込めていく
ただ、涙だけは…
それでも少しずつこぼれてきて
それでも……それでも耐えきれなくて、
おれはお腹が痛い振りをして
トイレに駆け込んだ―――
〜シロツメ ナナシ〜
『誰か』
やだ………
やだ……!やだ…!!!
誰か……!誰か………!
だれか…………、
だれか…………………
どんなにうずくまって
どれだけ叫んでも…
どれだけ喚いても……
誰も助けてなんてくれなくて……
こんなに……
こんなに人との差があるなんて…
あるのは仕方ないけど……
何もこんなに差がなく立っていいじゃん……
追いつけない……報われない……
足りない努力…?頑張れない心…?
私は………わたしは……
…………もう……がんばれない………
……………だれ……か……―――
―――――――――
私でも大丈夫ですか?
頑張り屋のあなた様
――― 〜星の図書館〜 ―――
これは……心が相当参ってますね
いえ、大丈夫ですよ
たまにいらっしゃいますので
夢を見てる自覚と意識はここにあるのに
体が形成できていないことは
ここでは割とよくあります
何度かありませんでしたか?
とてもそばにいるのに、
相手に気づいて貰えてないこと
おっと、
言ってる場合じゃありませんでしたね
そのままだと
話を聞けても喋れませんからね
では、少しだけ集中を
ほんの少しだけ、
自分の体を意識して―――
……?出来ない?
そうですか…
いえ、そういう人もたまにいます
では……そしたらば
ほかの体を借りましょう
あるいは、
新たに作りだしましょう
なんでも構いませんよ
好きな人形、動物、架空の生き物、
なんなら赤の他人だって大丈夫、
もちろん、リアルの人でも
キャラクターでもなんでも問いません
ええ、なぜならここは、
夢の世界 ですからね
それでも難しい時は
私の今持ってる
この犬か猫のぬいぐるみに
なって頂きましょうかね
―――――――――なるほど
先程のあなたの言ってたことは
私はまだよく分かってませんが、
きっと
「その姿になりたかった」んでしょうかね
多分ですが
私のぬいぐるみを選ばず、
あなたは、
あなたのイメージしたその姿になった
本意かどうかは一旦置いときましょう
少なくともこの場では
「あなたが選んだ」
それにはきっと理由がある
それは、好きだからかもしれない
反対に、あまりに苦手すぎるからかもしれない
なりたい姿、在りたい形、
あなたにとっては……とても、
とっても遠い存在なのでしょうね
その姿の存在というのは、
あなたにとっては
あなたのなりたい姿になってる人が
目の前に現れたような……
そんな感じも似ているかもしれません
あなたはきっと、
沢山我慢してきたのでしょう
たったひとりで
――――――
………っふふ
そうですね、あなたの言うとおり
稀によく聞く話ではありますが
私はそれを笑う理由はありません
特にここ星の図書館は、
私を含め、そういう人は
たまにいらっしゃいますので
なので、ほんの少しだけですが
あなたに寄り添える気はします
……さて、
あなたは…、どうしたいですか?
今はまだ夢の世界、
起きればまた戻ります
その時にあなたがどのように進むのか
ここでゆっくり、考えてみてください。
たくさん時間がある訳では無いですが
せめて、時間をゆっくりにして
考える時間を設けることぐらいなら出来ます
今の私には、
あなたをまだ知りえませんので
出しゃばったことは何一つ言えません
ただ、たったひとつだけ
この言葉を送らせてください
「あなたは、まだいきてます」
最大のチャンスは逃したかもしれません
ですが、まだできることや
やっておきたいことが、
ほんの少しだけでも残ってないか
まだ、「さがす」という事ができます
あなたにも この星の栞を
渡しておきますね
それからこれも、「星の付箋」もどうぞ
こちらも使い方は色々
覚えておきたいページに
あなただけの目印
それから、「その姿」を
もう一度再現するための目印
外付けメモリーみたいなものですよ
私のできることはこれぐらい
そして、あなたが
またここに来てくれることを
私はとても願ってます
―――では、
今日はもう時間みたいですね
―――「また来てください」ね―――
――――――――――――
………目が覚めた
随分と、深く……眠ってた………
最後に横になった時のまま
夜が明けようとしていた
あの場所は……いったい………
私は……、
まだ…生きていたい………のだろうか?
―――――――――――――――
おや?あなたでしたか
いらっしゃい、待ってましたよ
―――
ええ もちろん
ひとつずつ、お話しましょうかね
あなたが
あなた自身にも
読み解けなかった「あなたの物語」を、
私と一緒に読みといてみましょうか
〜シロツメ ナナシ〜
『遠い足音』
―――――――――聞こえない
――――――聞こえない
―――聞こえない
遠くの………遠くの……
「私の足音」
私は私が分からない
同じ悩み持ってる人……
他にいるか分からないけど
私は「自分」を、過去の至る所に
置いてけぼりにしてきてしまっていたらしい
それも沢山、…たくさん、
あとから来てくれるらしいけど
もうずっとずっと待ってる私
心配で、心配で…、
私は不安で動けなくなり、
「自分」が来るのをひたすら待った
待つことも怖かった
それは世界から、世間から、
置いていかれる恐怖があったから
それでも私は「自分」を待つことを選んだ
待って…待って……
ただ待って……………
ようやく来た―――
1人の「自分の本音」が追いついた
それはいつかの悩みの種
言い出したい気持ちをグッとこらえて
言わずに置いた時の
私の本音とその感情
ここにたどり着いたのは
―――――――――たったその1人だけ
他の「自分」は、
もっともっとたくさんいるはずなのに
待てど暮らせど、戻ってこない
今も戻るの怖いけど…
私は戻ると決心する
今の私には、
これ以上先に進むことが出来なくて
ここから先に進むには
置いてけぼりの「自分」を
たくさん迎えに行かなきゃ進めない
それが何となくわかったから
私はこれから先を生きるために、
戻り始めた
遠くの自分に、
私の足音が聞こえるように、
少しわざと足を鳴らしながら
今の自分が戻れるとこまで
私は私を迎えに行く
〜シロツメナナシ〜
『秋の訪れ』
始まりの前には終わりがある
秋の訪れを告げる前に
夏の終わりの音がする
定番なのはツクツクボウシ
セミはよくよく知っているらしい
いや、わかっている なのかもしれない
今年は特に
まだ暑いのに鳴き始め
信じられないと思っていたが
次の日あたりから
夜に涼しさを感じた
私は夜風を感じながら寝るのが好きで
なるべく夜は扇風機プラス窓を開ける
そして、夜風がある…と感じた
こんな些細な変化を
きっと感じとったんだな、と
ついでに言うと
猫もこっそり教えてくれる
時期によってねどこが違うのだ
夏場はフローリングに
猫たちが落ちてるのだが
セミ同様、
何か違いを感じとったようで
人の布団や違う箱の中で
寝るようになってきた
人より敏感な生き物たちが
大きな声や、声なき声で、
秋の訪れを告げてくれている
普通すぎることなのに
普通がまた来てくれる
なんかそれが、嬉しく思う
〜シロツメナナシ〜