『星明かり』
空を見上げる
新月の夜
頼りは星の明かりだけ
目は夜に慣れてきたけど
どんなに道が慣れてても
やっぱり見えづらい
慣れた道を歩く
昼間なら踏まないような
田んぼの周りに足が落ちかける
あかりがない分
耳が敏感
風の音や数台の車
久しく聞こえた
虫たちの夜の音楽会
チューニングが始まったばかり
真っ暗の特権
天の川
どれだけ遠くに歩いても
どこから見ても見てられる
「おやすみなさい」
と星の声
昼は寝ている星たちの
仲良く眠る時間です
私もそろそろ
帰って寝よう
夜の散歩、また今度
〜シロツメ ナナシ〜
『影絵』
眩しい…
強い光に包まれた
どこから光が当てられてるのか
それが分からない
眩しさに少しだけ目が慣れてきた
そこには……
自分の影―――
それも、複数の……
影だからか
その表情は分からなかった
この影たちは……私…
今にも襲ってきそうな感じが
何故か漂ってる
どんどんにじりよってくる
その圧で怖くなり
後ろに下がる
そこで何かにぶつかった
壁?こんな所に?
……違う
私は、「影(私)」にぶつかった
囲まれた!?
……違う、
この私……怯えてる
前にいるたくさんの影の私達は
後ろの少ない影の私を狙っていた
そして――――――
それは影絵のような光景
全く音はなかった
全て自分の
見るに堪えない酷い光景……
……なぜ?
……ううん、うそ
………これは
私の心だ
私は常に
私の本心を押し殺して生きている
それを、こんな形で
私は私に見せてるんだ
今ここにいる私は
そんなこと思ってない
………訳じゃない
いつの間にか自分の気持ちを
押し殺すことを慣れてしまっているんだ
これは…
この影絵のような光景は……
私が押し殺し続けてきた
「私の本心が見せてる最後の警告」
なのかもしれない……
……ぁぁ、そうだ
私は、私の気持ちを
ずっと…ずーっと……
……………………目を覚ました
酷い寝汗だった
夢の光景は…、少し覚えてる
部屋の鏡を見た
私は私を毎日見てるはずなのに
私はなんだか久しぶりに
「私」を見ている気がした
寝汗は特に、
目の周りに多かった―――
〜シロツメ ナナシ〜
『物語の始まり』
○ちこくちこくー!
△……んで、パン加えて走ってきたけど
誰にもぶつからなかったと
○わー雨が!?
□……それで、雨降る人わかってて
濡れながら雨宿りしたけど
冴えないおっさんさえ現れない、と…
○すみません乗りまーす!
△…と思いつきで慌てて
電車に乗ってみたけど
間違えて女性専用車両だったと
□しかも混みあってて普通車両に
移動さえできずに終わったと
○だーもう!!
なんでこんなにフラグ壊すかなぁ!?
□ はぁ…。ほんと○ってさぁ、
成績いい方なのに結構抜けてるよね
○おまえ!それでも友達かー!
□友達だから
あなたの出会いのきっかけを
しぶしぶ色々提供したり
こうやって聞いたりして
実行させてるんでしょうが
普通なら止めるところよ?むしろね
△見事なまでの空振り感だなぁ
□って言うかあんた、
なんか、スカウトされたって
言ってなかった?
それどうなったの?
△(こいつスタイル良いからなぁ…)
○あれは…ダメだった!
いや、って言うかあれは…
騙されかけた……
すぐ決められないから
名刺とか奪うように貰って
帰って色々と調べたら
特にそういうの見当たらなくて……
ぁ、これそういうヤバいやつって…
□……そう、
それは…あんたが無事でよかったわ
○だからその話はもうやめて…
今思い出しても怖いから……
△ぉ、ぉぅ…。とにかく、
無事でよかったわ、ほんと
□って言うかほんと……
相変わらず
色んな意味で運がないわねぇ
○他は!?他はなんかないっけ!?
この際もっとド定番な出会い方!
ない!?
△ド定番?
んなら幼なじみとかは?
○ 小学校も含めていいなら
□がそれにあたる!
□ 私はパスよ?
私は異性が恋愛対象だから
友達で許してね〜
○それは分かってるわよ!
私もそうだから!
異性の幼なじみとかも居ない!
あれはガチで夢だわ!夢!
△(分かる……)
□んなら、夕方の図書館は?
○ぅ、それは〜……
△あぁ、こいつ出禁くらってるらしい
○ちょっ…!なんで言うの!?
って言うかなんで知ってんの!?
△あそこの委員のやつ
俺 割と仲良いのよ
○ウソでしょ!?
あんた他に友達いたの!?
△失礼じゃない!?
居ないとも言ってないし!
□まぁ△ともつい最近だし、
まだ知らないことあってもおかしくないか
○くっそー…そうと分かったら…
今度ひっぱたいとこ……
□やめなって……って言うか
何やったのよ、あんた……
○それは別にそんな酷いことは…
△あぁ弁当隠れてずっと食ってたらしい
○だから言うな!(チョップ!)
△ぃった!!
□…時々居ないと思ったら
そんなとこ行って逃げてたのか…
……前回までの約束の分、
ちゃんと奢ってもらうから
○あーもぅ!
バレたじゃない!
△色々と自業自得だろ……
□それで…?ほかはまだ探すの?
○ん〜もっとなんか案を!
△部活は……やってないもんなぁ
○バイト始めたからね!
□ならそこに男性いないの?
年上の人がいるなんて定番でしょ?
○それが…
ぁ……後で気づいた…
そこ、女性ばっかの職場……
△あーあれだ、
割と高額でんでもって
女性が多く働いて〜とか
書いてあったから受かりやすいとか?
○(無言チョップ)
△ぃった!さっきより痛い!
□ △くん、
ほんとでも言っちゃダメ……
○ □もそれ言っちゃダメ!
△んまぁ、大概潰れたなぁ〜
んならちょっと変化球だけど…
コンビニとかは?
そこの夜の店員さんと
仲良くなるとかたまに聞くじゃん?
○そんな遅くにコンビニなんて
私行かないもん〜…怖いし…
△それもそうか
□そういえば○って
ネトゲとかしないの?
○ゲームはするけど……
うちまだネット繋いでないから…
けどもうしばらくしたら
繋いでくれるらしいから
それはまたその時考える!
△ようやっと ひとつ
ワンチャン出てきたな
□ま、がんばんな
○あいよ!
あーちょっとトイレ!
□恥じらい持ちなさいよあんた…
□ところでね?
△ん?
□あんた、何もの?
△え?………え??
□あーごめん
雑に聞いちゃった
あの子さ?コミュ力高いけど
こと恋愛になると、妙に運がないのよ
いや、ある意味運がいいのかもね
まるで特定の人に会うために
周りの環境そのものが
その人に会うまで変な人たちと
巡り合わせないようにしてるかのようにさ
△へぇ……
それは……昔から?
□会ってからしか知らないけど
少なくとも、私と会ってから
なんとなく…そんな気がする
△へぇ〜、
悪運というか…守られてると言うか
□それはさ?
普通の友達でもそう
こいつとは友達だなぁって言うのは
そのまま今日まで続いてる
けど、
いざ恋仲に発展したいって思って
告白しようとする男子とか
○がアタック仕掛けようとする場合とかは
なんかことごとく運がないのよね
△例えば?
□どっちかが腹痛になるとか
相手に妙に嫌なことが起こるとか
あとは○が好みじゃなかったら
バッサリ切る!とかね
△……どれも気になる………
□そんなのを
私は長年見てきた中での
「君」なんだよ?
こんな聞き方になりもするもん
△ん〜……
□たまたま席が
近かっただけにしても
男子とこんな距離感は
過去見てきた中でもかなり珍しいの
△……なに?俺にどうしろと?
□私はどうにもしない
例えばもしふたりが
付き合うかどうかなんて
個々人の問題だからねぇ
だからせめて、
いい関係で続いて欲しいって
願ってるのはホントかな、私は
△そっか
□それだけ。
けど、何となく覚えといて?
もしかしたら、もしかしてだけど
あの子の新しい物語が
始まろうとしてるのかなぁ
……なんて、友達としては思うわけ
△……なんとなーく覚えとく
□ん、それは助かる
○ただいまー!
買ってきたわよ!
△待って!?買ってきた!?
購買行ってたの!?
○出すもの出したから
なんか小腹すいちゃって!
菓子パンいくつか買ってきた!
□だから恥じらい持って
喋りなさいよ…
○いただきマース!
△食い気に恋探し、
ある意味今、
いちばん忙しい時期かもね
△(俺、色々不安なような…
ほんのちょっとだけ楽しみなような)
〜シロツメ ナナシ〜
『静かな情熱』
彼からはちっとも
やる気らしいやる気が見えない
いつもわりとぼーっとしてるし
表情を変えることも少ないし
授業中も結構な確率で
(バレないように)寝てるし…
……かと思えば
当てられたら当てられたで
問題には答えてる
テストもいつも上位に…
運動も結構できてる
激しいのは苦手っぽいけど
マラソンやサッカーみたいな
持久タイプは得意っぽい
…彼って……
生きる上でのやる気の炎みたいなのが
ものすごく小さいんだと思う
それも蚊取り線香みたいな
ゆっくりと燻ってる程度に思える
けど、もしかしたら……
私たちにはそう感じるだけで
それで彼にとっては十分に
燃えたぎってるのかもしれない
理由は分からないけど、
それこそが、
彼のベストパフォーマンス
ってやつなのかもしれない
だとすると……
彼は…
何が好きで、何が夢中なんだろ…
色々と何故か
彼のことが、気になってしまう
彼の見えるようで見えない
小さな情熱の先を、
なんとなく知りたくなった
〜シロツメ ナナシ〜
『遠くの声』
本を
ペラッペラッと
何気なく開いていく
…ふむ、これは……
では、この辺りにしましょう
ここなら今のあなたでも
耐えられるはずです
―――――――――――――――
(なんで俺が我慢しなきゃ!)
まるで小学生の男の子…
この声は……いつだったか…
(いやだ!いやだー!!)
まるで幼稚園児のような駄々…
この声は…確か……
(まって!その日はどうしても!)
これは…社会人一年目…
そう……この時だったら
少し覚えてる
(いやだって…言いたいのに…!!)
これは…、ぁぁ…これは……、
はぁ…!はぁ……!ぁぁ…!
―――――――――――――――
パタン!
…では、この辺にしましょう
お疲れ様です
どうぞ、まずは呼吸を整えて
飲み物も用意しました
あなたのお好きな
ホットカルピスですよ
…えぇ、お好きなタイミングで
飲んでもらって大丈夫ですよ?
まぁここは元々
夢の世界なので
飲んで大きく変わる訳では
ないかもですが、せめて
今の気持ちが楽になるなら、と――
時間のことはお気になさらず
少しでしたら、調整できますので
…さて、改めて
ここがどこかお分かりですか?
そうです
ここは私の【星の図書館】、
そしてここは
「プラネタリウム」と言う部屋です
気持ちが落ち着いてきたみたいですね
はい、先日、
あなたの記憶から生まれた
星のアルバムです。その中から
少しだけ覗かせてもらいました。
あなたの、
どうしても向き合いたい記憶
あなた自身がほぼ忘れてしまった
負の感情のみとなってしまった
どう片付けていいか分からないような
そんな気持ちや記憶を
私がほんの少し刺激して
思い出せるように促しました
…よく頑張りましたね
自分のツラい過去と向き合うなんて
それはやろうと思っても
簡単にはできることではありません
そしてこれは、少しずつ
時間をかけて乗り越えていきましょう
一気に向き合ってしまえば、
今のあなたが壊れてしまう
それでは元も子もありません
こう言うのは
筋トレやレッスンと同じです
日々の練習を通して、
少しずつ向き合っていくこと、
それであなたは、
少しずつ強くなる
それは、
今のあなたの強化でもあり
過去のあなたが救われる
あるいは…少し大袈裟ですが
これまでのあなた全てが強くなれる
そんなふうに思ってくれると良いですかね
さて、今回の星のアルバム…
…え?この本を持っていきたい?
それは…良い心がけですが
あまりおすすめは出来ません
この量を一気に思い出すというのは
今のあなたでは苦が重すぎます
…ですが、そうですね
では、先日渡した栞を1枚いいですか?
今回見たこのページに
栞を挟んどきますね
これで、日常の中でも
今日見た場面を完全に思い出さず
ですけどこれまでよりも少しずつ
普段から思い出しやすく
なるようになりますので
過去の向き合いたい
ツライ記憶と向き合いつつ
乗り越えて行けるように
なるかもしれません
いえいえ、
私は少し手助けしてるだけです
『今 1番頑張ってるのは、あなた』
…なんですよ。
それは覚えておいてくださいね?
…さて、
今日は少し長くなりましたね?
そろそろ目を覚ます頃です
はい、あなたさえ良ければ
いつでも来てください
ただそうですね… ひとつ約束を
今回はあなたにとって
ほんの少しだったかもしれませんが
今のあなたにはかなりの負担になりました
なので次回来る時は
ほんの小さなものでも構いませんので
心のお守りになる『幸せなもの』を
ひとつでいいので、持ってきてください
それはどんなものでも構いません
過去の幸せな記憶でも
今ある肌触りの良い毛布でも
お渡しした夢枕でも大丈夫ですが
あなたの心がより回復しやすいように
あなたがより幸せになれるように―――
なのでそれを一つだけ、お願いします
はい、ではまた
心の整理でも
読みたい本のためでも
いつでも来てくださいね
〜シロツメ ナナシ〜