4/6/2023, 12:29:00 PM
君の目を見つめると、日だまりで気持ちよさそうに眠るアザラシが見える。でっぷりとにこやかにその図体をこれから青く茂るであろう芝に埋めている。その額に指を擦り合わせ粉状になった茶葉をかけてやる。その香りが気に入れば、そのまま桜餅になってわたしたちの食卓に並ぶ。気に入らなければ眉間にしわを寄せ、きっとくしゃみでもするのだろう。君がまばたきをする前に、眠る。
4/4/2023, 10:34:36 AM
よく歩いた。振り返らずとも思う。風が吹く度に頬は冷たいし、鼻の奥がじんじんする。歩いたことが勲章にはならないと、自分で自分を許せないまま歩く。誰かは優しかった。また他の誰かも何かを言っていた。私には私の声も、誰かの声もぼんやりとしている。
うつくしいものだけを見て、聞いていた。触れ、愛でていた。
それだけが現実でほんとうのこと。
うつくしいと感じる心だけが私の存在を私たらしめる。
そうやって、生きてきた。だから私は袖口を濡らして二度と振り返らないのだと言い聞かせながら、鋭い目つきをしてみせて、すこし空笑いしたあとにもう歩くのをやめてもいい。
4/3/2023, 12:52:36 PM
ぽつんとそこにある塔は、深くに根を張っている。
ぽつんといえどそれはそれは大きいのです。
でも、あなたも私も遠くにいるからね。実際のところよくわからない。近くに行けば、その足元の、ごつごつと出てきた根もとに、白くポワポワした毛虫とか、触覚のうつくしい昆虫がうごめいているのかもしれない。
そう考えると、塔というのはここにしかないらしいけど、そんなことぜったいないはずだと確信に変わる瞬間があった。
無数にある世界。私の足もとに1回だけしか触れることのないだろう風が吹く。髪はなびかない。足元だけに漂うのだ。