エリオと津詰は署内の休憩所にいた。
「ほら、カフェオレだ」
「えっ?どうしてオレ今カフェオレ飲みたいってわかったんですか?」
「俺の鋭い勘だな」
「なんですかそれ」
「俺とお前さん、長い付き合いだろ?そんくらい分かるわ」
「へー、じゃあボス、今オレが1番欲しいもの、分かります?」
「欲しいもの?……そうだな、万年筆、とか?」
「ぶっぶー!全然違いますね。耄碌しちゃいました?」
「してねぇって、つーか、ヒントがねえなぁ」
「え、もうヒントですか?まあ、分かりました。ヒントは、今この空間の中にあります」
「この空間?この中にあるもの……、あ!わかったぞ!さては、観葉植物だな?」
「ぶー!また外しちゃいましたね!もう正解言っちゃいますね。正解は、」
「正解は?」
「………ボスの愛情です」
「……は?」
僕の名前はそこまで珍しくないものだ。
好きでも嫌いでもない。
でも、意味あるもの。
これからも大切にしたい。
オレの視線の先にはいつもボスがいる。
ボスの大雑把な所作、細やかな手遣い、虚ろげな瞳孔、全てがオレにとって愛らしく見えてしまう。魔法がかかっているのだ。
本当は毎分毎秒オレの視線の先にはボスがあって欲しい。しかしその欲ははいつかは叶えられなくなる。
だからオレはボスとの空間をいつでも大切にする。
ボスへ
オレだけを愛してください
エリオ
俺が娘にかけてやれた時間はどれくらいだろうかと考えていると、いつも胸が痛み後悔する。
俺が仕事人間で家族に自分の時間を割けられなかったことくらい分かっていた。クソみたいな父親だ。もっと、家族で過ごす時間を設けられたらどれほど良かったか。
だが、時間は戻せない。決められた運命を受け入れて、心の隙間を埋めていくしかない。
俺の覚えている限界の記憶だと、俺とあいつは喫茶店でアフタヌーンティーを嗜んでいた。頬にケーキのクリームをつけた愛らしい顔は今でも鮮明に脳裏に浮かぶ。俺はあの時からあいつの笑った顔を見ていない。
俺だって自分の娘を愛していなかった訳ではない。でも、あの頃はいつも仕事が忙しいという逃げ文句ばかり吐いていた。仕事と家族を天秤にかけると、いつも仕事が下になっていた。
そんなことを考えながら、俺は泡の薄くなった麦酒に口をつけた。