僕は基本的にLINEの通知は切っている。
通知がいちいち来るのが鬱陶しいからだ。
だが、そんな僕でも1人だけ通知を許している人がいる。
そんなの誰かは決まってる。
その人からさっき1件のLINEがきた。
「今日の晩ご飯何がいいの?」
お母さんだ。
エリオは目が覚めると少し異質なの夜の道路に立っていた。最初は状況が掴めず、体が動かなかった。ふと足元に目をやると、そこには、胸元が赤く染った黒シャツを着た彼の上司が倒れていた。
「ボス?ボス!」
エリオはパニックになり、また、体が固まった。声を出したいのに、出ないもどかしさがエリオを襲った。
「うっ、エ、エリオ……」
「っ!ボス!」
津詰の呼び掛けでエリオは解放された。だが、パニック状態は治まらず、ガクガクと震えていた。エリオは力を振り絞って口を開けた。
「ボス!しっかりしてください!」
「エリオ、多分、俺はもうダメだ。なんせ、あんな、弾を、2発も、お見舞い、したからな……」
「そんな、ボス!ダメです!今救急車呼びますから!」
「無理なもんは、無理だ。すまないな、俺が、こんな、ことで、逝っちまう、なんて。エリオ、お前は、1人前なんだから、必ず、捕まえて、くれ。明るく、元気に、犯罪検挙、しろ、よ……な……」
「嘘でしょ……ボスっ、しっかりしてください!お願いですから!」
エリオは叫び続けるがその声は虚しく届かない。何度も何度も叫ぶが、届かない。
「ボス、ボス……」
エリオは津詰の手を握り、嘆いた。まだ、温かさは残っていた。その温もりを最後まで感じようとさらにいっそう強く握った。
これ以上ない力で握りしめた瞬間、ふっと頭が前に倒れるのを感じた。
(まさか、オレまで……)
エリオはそのまま意識を失った。
「おい、エリオー。大丈夫かー?」
エリオは目を覚ますと、目の前には見慣れた上司の姿があった。
「大丈夫か?随分うなされていたみたいだが」
「ボ、ボス!い、生きてる!ボス〜っ」
エリオはこの上ない気持ちでいっぱいになり、津詰に抱きついた。
「お、おう、なんだいきなり、俺は普通に生きてるぞ?」
「っ、ボス、よかったです、」
「なんだよ、急に泣くなって〜」
エリオがあまりにも涙を零したので、津詰のスーツには斑点がぽつぽつと現れた。
「大丈夫か、お前さん、そんなんだったら、干からびちまうぞ?」
「少しは楽になったか」
「すみません、ボス」
「大丈夫そうだな。それじゃ、さっさと捕まえに行くぞ」
「捕まえるって、何をですか?蝉ですか?」
「何言ってんだお前は、捕まえるって、何も、お前さん、言われただろ?拳銃を持った危なっかしい輩だよ」
「あっ、そうでしたね、そうでし、た?」
エリオの頭の中で何かがフラッシュバックした。
オレの毎朝のルーティーンのひとつはボスに頭を撫でてもらうことだ。
「エリオ、おはよう」
ボスの大きい手でオレの髪をワサワサと掻き混ぜる。これがなきゃオレの一日は始まらない。
オレはこれのおかげで毎朝幸福で満たされるのだが、たまにこれがいつまで続くのかとも不安になる。俺たちは警察だ。いつ命の危機が訪れるのかオレには分からない。
このちっぽけな当たり前が永遠に続けばいいのに。
夜が遅くなると街の明かりは僕を攻撃してくる。
最近の東京はどこへ行っても暗くない。まるで昔の大英帝国のように。
夜の東京を探索するのは楽しいが、物騒なことに巻き込まれることもある。だが、東京というひとつの文化を体験できるのは非常に趣深い。
こんなことをしているから、不眠症になってしまったのだ。
今日は七夕。一年に一度だけ織姫と彦星が会う日だ。
「ボス、どんなお願い書きますか?」
「うーん、そうだなぁ、健康でいられますようにとかか?」
「ベタすぎません?それ。ある意味耄碌してません?」
「してねぇわ!てか何でだよ」
オレが短冊に書くことなんてひとつに決まってる。
それは、
〜ボスと今後も一緒にいられますように〜
そんなことを書いている時、空では流れ星がひとつ、走り抜けていった。