貝殻
「やっぱり海は良いね」
「来るとなんだかほっとする」
彼は内陸の出身だった。
だから余計に海に憧れがあったのか、来るととても喜んだ。
そしていつも、「安心する」と言っていた。
「この貝殻はどこから来たんだろうね」
「あ、でも元々は海の中にあったものが流れてきたのか」
貝殻を拾い、1つ1つにどこから来たのか問いかけていた。
そして最後は必ず
「元来た場所にお帰り」
そう言って、海に流していた。
持ち帰ることは1度もなかった。
なんか、浦島太郎が助けた亀を海に返してるみたいだね、と
笑いながら話していると
「誰にだって帰る場所はあると思うから」
と、返してきた。
あれから、数年。
自分は1人で海に来ている。
貝殻を1つ1つ手に取っては
「誰にだって帰る場所はあると思うから」
そんな台詞が頭を過ぎる。
彼の帰る場所はどこだったのか。
少なくとも自分ではなかったのか。
確か出会ったのもこの近くだったな。
もしかすると、彼は
海には、揃えて置かれた靴だけが残っていた。
Fin.
きらめき
街灯は虹色
空まで届きそうな高いビルが立ち並んで
その間には華やかなショーウィンドウ
歩き続けるのに疲れたら
あの最上階のバーにでも行こう
底が赤い靴を鳴らして
バッグは小さくて構わない
僕にすべて任せてほしい
秘めたきらめきに気づかない君を
僕が必ず導いてあげる
この手は離さないから。
些細なことも
あ、今日は前髪を分けてる。
その服は初めて見たかも。
今日は少し眠そう。
今日は少し元気がなさそう。
今日は楽しそう。
あ、今ちょっと言われたくないこと言われたな。
だけどすぐに笑顔で隠したな。
あの人のことを褒めてるな。
些細なこともすぐに褒められる人だもんね。
些細なことも、俺には全部お見通し。
だけど君は、そんな俺など露知らず。
誰よりも君のことを見て、感じ取ってるのに。
ねえ、なんでそんなに分かるの??
それはもちろん、君ばかり見てるからだよ。
いつかそんな会話が
些細なことから始まりますように。
心の灯火
そっと火が灯る
ゆらゆら、ゆらゆらとどこか頼りなくも
消えそうで消えないそれ
色は青
赤く燃えたぎるような色ではない
優しいような
寂しいような
だけど芯はあるような
静かに、静かに
パチパチという音すらしない
物静かに、強く揺らめく灯火
それは貴方そのものかもしれない
いや、私の心そのものかもしれない
消えないようにそっと両手を添えてくれる
貴方なのかもしれない
開けないLINE
もう逢わない。
もう連絡しない。
もうおしまい。
そう思って、彼を友だちから削除した。
いやもう、いっそLINEアプリごと削除してやった。
元々スマホとか疎いし
友達だってそんなにいない。
最悪SMSと電話さえあれば大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫じゃなかった。
なんで友だち消したんだ。
なんでLINEアプリごと消すなんてしたんだ。
なんで
なんで・・・
結局後悔しながら、しぶしぶLINEアプリを入れ直した。
画面はログインから始まる。
アプリを消しただけではアカウントは消えないみたいだから
再度ログインする。
「バックアップを復元しますか?」
とりあえず言われるがまま「復元する」を押したら
彼の名前が現れた。
最終バックアップ日:20××年〇月×日
あの日、だった。
そのまま彼とのトーク画面を開いたのは言うまでもない。