不完全な僕
欠けているところがないと言われる。
天は二物を与えずなんて、嘘だねと言われる。
知識とか
人間関係とか
性格とか
容姿とか
振る舞いとか
地位とか名誉とか
財産とか資産とか
総てにおいて
欠けているところがないと言われる。
そう、見えるかい?
だけどそこには“僕”はいないんだ。
本当の“僕”は誰も知らない
誰かがふっと呟いた
あなたは“不完全な僕”でしかない。
Fin.
香水
「ラベンダーの香りだよ」
「気に入ってるんだよね」
ある日、彼は香水を使い始めた。
今までそんなお洒落なものはそんなに手を出さなかったのに。
使い始めた香水は、こっそり調べてみたらいわゆる
“モテ系”なタイプのものらしかった。
かくいう自分も、こそこそ調べるなんてらしくないことに
今までは手を出さなかったのだけれど。
でも、彼は決して“異性にモテたい”とあからさまに発信する
タイプではないことはよく知っている。
ならば、誰かに好意を寄せていて
そのアピールとして使い始めたのだろうか。
その相手は誰かなんて、分かるはずはない。
その相手はいつか、ラベンダーの香りに引き寄せられて
彼の好意にいつか気づくのだろうか。
好意に気づいて
いつか彼と同じ香りを漂わせて
自分の前に現れたりするのだろうか。
自分も同じ香水を付けて
彼の前に現れてやろうか。
それともあえて彼の前には現れずに、
彼の周辺の友人の前にでも現れて
「え、相手はお前だったの?」とでも言われてやろうか。
柄にもない姑息な手口を頭の中で浮かべ続けていたある日
彼は言った。
「ラベンダーの色はあなたの誕生色、ラベンデュラ。
花言葉は「あなたを待っています」「期待」「幸せが来る」だよ」
その香水が柄でもない自分の一部となったのは
それから間もないことだった。
Fin.
言葉はいらない、ただ・・・
「頭良いね」
「礼儀正しいね」
「いつも笑顔だね」
「すごい」
「さすが」
「今日も冴えてる」
日々、かけてくれる言葉。
「調子のってんな」
「ただの八方美人じゃん」
「アイドルがインテリぶるな」
「ムカつく」
「嫌い」
「出てくるな」
無機質で四角い、薄っぺらな小さな箱に並ぶ言葉。
どっちも見慣れた言葉たち。
優しい言葉。
厳しい言葉。
温かい言葉。
貶す言葉。
どれも同じ言葉だけど
受け取る時の感情は多岐に渡りすぎて
一喜一憂するのも疲れてしまった。
そんな時は言葉なんて投げ捨てて
心で接してくるあなたに逢いたい。
「ただいま」
「おかえり」
そっと自分を包んで、髪を撫でてくれるあなた。
温かな笑顔で微笑んでくれるあなた。
「仕事大変だったね。今日は俺がご飯作ったから」
何も言わなくてもそう言ってくれるあなた。
言葉なんていらない。
ただ分かってくれる、あなたがいてくれればそれでいい。
突然の君の訪問。
♣️「・・どうしたの、急に」
とある休みの日、♠️は俺の家にやってきた。
♠️は同じグループで仕事をしている仲間。
♠️「近くまで来たから、寄ってみた」
・・・嘘だ。
♠️は、休みの日はほとんど家から出ることは無い自分の家が
大好きな性分。
確か今日は♠️も休みだったはずだ。
だから外に出るなんてないはず。
そんな風に嘘が下手なのも、♠️の性分だ。
♣️「・・どうぞ」
♠️「ありがとう」
とりあえず家の中に入れて、ソファへ促す。
お茶入れるね、と一言告げて、自分はキッチンへ向かった。
ちょうど友達から貰った美味しいコーヒーがあるから
それをいれていたら。
♠️「♣️。」
近くに♠️の声がして、振り向くと彼はキッチンの入口辺りに
立っていた。
♣️「…な、に……?」
ゆっくりと♠️がこちらへ近寄る。
♠️「今、悩んでるでしょ」
思わず、コーヒーを入れる手が止まる。
♣️「・・何の話…?」
♠️「とぼけないで良いよ。俺には分かるの。」
真っ直ぐに見つめてくる♠️。
そう、彼は嘘もつけないどころか、駆け引きもできない人。
♠️「話して??そのために来た」
結局、最初の嘘もバラしてしまう♠️。
でもここまで直球で来られたら、さすがにこっちも
隠しようがない。
♣️「・・分かった」
♣️「コーヒー持っていったら、話すね」
そう言ったら、彼は急に優しげな表情に変わった。
うん、とだけ言って、ソファに戻る。
それから涙が流れるほどまで話を聞いてくれたのは
他でもない彼だけだった。
雨に佇む
しとしと降る雨は嫌いではない
時にそれは1つの絵画のように、
風景のように見えることもある
一瞬にして景色を変えてしまう自然の魔法
雨に佇む
激しく降る雨は好きではない
けれどそれは時に一瞬にして周りを白く染め
霧のように街を覆ってしまう
一時の罪滅ぼしにも見える自然の魔法
雨に佇むときは
一時別世界に入り込んでしまったような
自然の魔法にかけられる